7:イジワルなお星様

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7:イジワルなお星様

 差し出された日記帳に、ケインが眉を潜めます。その顔に、僕はちょっとだけ怯みましたが、ここまで来て後には引けません。 「そう、これが僕の友達のウィップ。ケインにも紹介したくて!」 「日記帳が?」 「そうだよ。ヘン?」 「ああ、ヘンだよ。そんな奴、オレの周りには誰も居ないね」  どうやら、日記帳が友達っていうのは、変な事のようです。でも、変と言われてもウィップは友達です。変なのはウィップなのでしょうか、それとも僕なのでしょうか。  そう、僕が少しだけ悲しい気持ちでウィップを見ていると、ケインが慌てた様子で言いました。 「で?そのウィップがどうしたんだよ。紹介してくれるんだろ?」 「っ!そう、そうなの!ケインにもウィップの事を知ってほしくて!」  ケインがウィップの事を名前で呼んでくれるのが嬉しくて、僕はケインにピタリと肩をくっ付け合うとパラパラとページを捲りました。 「見て!ここにはね、僕のヒミツがたくさん書いてあるの。ウィップにしか話してない事がいっぱいあるんだよ」 「ラティの秘密?」 「うん、僕のヒミツがいっぱいだよ!」  ケインはパチパチと目を瞬かせながら、ウィップを見つめます。ケインの綺麗なエメラルドグリーンの目がジッとウィップを捕らえて放しません。 「見ていいのか?」 「いいよ!だってケインも僕の友達だもん!」  僕の言葉に、ケインはウィップを受け取ると、パラリと中身を捲り始めました。そんなケインを僕は嬉しい気持ちで見つめます。だって、僕は初めて自分の「友達」を「友達」に紹介できたのですから。こんなに嬉しい事はないって……最初は、そう思っていました。  でも――。 「ねぇ、ケイン?」 「んー?」 「あの、もうそろそろ……」 「ダメ。まだ全部読んでないし」 「あぅ」  そうやって、真剣にページを捲るケインを見てみれば、もう半分以上目を通しています。あぁ、もう。僕はバカでした。こんなの少し考えればすぐ分かる事だったのに。 「ふーん。ラティって俺の事、最初は、キレイなお星様って思ってたんだ」 「っあ、あ、えっと……」  ケインにウィップを紹介するって事は、中身を読まれてもおかしくないって事です。そうなると、これまでケインに対して思っていた事が、ぜーんぶ本人にバレてしまいます。  あぁ、僕は本当にバカです。それがとっても恥ずかしい事だって、僕は今になってようやく気付いたのですから。 「“ケインの目はまるで星のカケラみたいにキラキラしていて、とてもキレイです”」 「っっっ!」  そのうち、ケインはニヤニヤとしながら僕の日記帳を音読し始めました。意地悪です。そう、ケインにはこういう意地悪な所があるんです!見た目はとてもキレイでお星さまみたいなのに、中身はちっともそうじゃなかったのです。 「“ケインとは毎日会ってるけど、夢の中でも会いたいなぁ”」 「っも、もう返して!」 「まだ、途中だからダメ」 「で、でも!」 「ウィップを紹介してくれるんだろ?それとも何だよ?オレはラティの友達じゃない?あーぁ、悲しいなー!さっきオレの事を友達って言ってくれた事はウソだったんだー」  そう言って僕に背を向けるケインに、僕はヒュンとお腹の底に冷たい風が吹いたような気がしました。 「あ、ちがっ……!ケインは僕の友達だよ!」 「じゃあいいだろ!えーっと、なになに?」 「あ、あ、あ!」  ケインは確かに僕の友達です。  でも、さすがにこれ以上ウィップの中身を読み上げられたら、きっと僕の体から火が出てしまいます! 「や!返して!」 「んー?」  僕はケインの手にあるウィップを取り返そうとしますが、さすがは騎士の家の子です。ケインはひょいと身軽に体をかわし、僕は勢いでペタリと床に膝をついてしまいました。  ケインはそんな僕に見向きもしないで読み上げを続けます。 「“ねぇ、ウィップ。ケインに嫌われてしまったら、僕はきっと生きていけないよ!ケイン、大好き!”」  そう、面白がるようにウィップを読み上げ続けるケインに、僕はとうとう恥ずかしさのあまり、その場に蹲りました。恥ずかしくて、恥ずかしくて。そして、少しだけ悲しくて。気付けば、蹲った拍子に目からポタリと水滴が零れ落ちて来ました。
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