第19話・他星系へ出発。説明回スマヌ

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第19話・他星系へ出発。説明回スマヌ

 二人はヴィンティス課長に形ばかりの挨拶をして、ヤマサキとともに緊急機の駐機場に向かった。行きはシドが左のパイロット席、ハイファが右のコ・パイロット席、ヤマサキが後部に座る。だからといってシドは何をするでもない、全てはハイファ任せだ。  役目を心得たハイファはテラ連邦軍に於けるBEL手動操縦資格・通称ウィングマークも持つという小器用さだが、ここでは腕を披露せずに反重力装置を起動すると、宙港に座標をセットしてオートパイロットをオンにする。  ウェザコントローラの働きか、綺麗に晴れ渡った蒼穹に緊急機はテイクオフした。 「いいなあ、先輩たちばっかり『出張』に『研修』で。羨ましいっスよ」  独りガチで信じているヤマサキをシドとハイファは振り返り、キャベツを毟ったら青虫がいたような目でじっと見る。毎度毎度別室任務が降ってくるたびに『出張』だ『研修』だと二人は誤魔化して出掛けるのだ。  シドとハイファばかりに降ってくる特別勤務に、七分署一空気の読めない男のヤマサキ以外、もう機捜課の皆は二人に何か秘密があると悟っている。悟った上で黙ってくれているのだ。 「俺にも他星系への出張とか回ってこないっスかね?」 「遊びじゃねぇんだぞ。黙っとけ」  今度別室任務が降って湧いたら、こいつにリモータごと投げ渡してやろうかと思いながら、そう言ってヤマサキを封殺したつもりだったがヤマサキは口を閉ざす気配がない。闇雲に羨ましがった次には機捜課の誰がフラれただのという話を披露する。  仕方がないので適当に相槌を打っているうちに二十五分が経過し、宙港管制からの干渉があって機のコントロールを渡した。五分後に緊急機は宙港隅の駐機場にランディングする。  帰りには独りででも喋っているのではないかと思われるヤマサキに礼を言い、降機すると宙港専用コイルに乗り込んだ。何せ宙港は広大だ、歩いてなどいられない。  僅かに身を浮かせたコイルは七、八分かけて宙港メインビルのロータリーに滑り込む。  降りて二階ロビーフロアに上がると、まずは自販機に並んで太陽系のハブ宙港である土星の衛星タイタン行きのシャトル便のチケットを買い、シートをリザーブした。  タイタンには第一から第七までの宙港があり、そのどれかを通過しなければ太陽系内外の何処へも行けないシステムになっているのだ。巨大タイタン基地には精鋭無比のテラの護り女神・第二艦隊が駐留し、テラ連邦議会のお膝元であるテラ本星の砦とも云える要所である。  ちなみに攻撃の雄・第一艦隊は火星の衛星フォボスが母港となっていた。 「現在時、十一時二分。吸いに行くなら今のうちだよ」  勿論シドは迷わず喫煙ルームへと向かった。シャトル便の発は毎時二十分だと知っている。チケットの最終チェックと乗り込みは十五分前から開始だ。  だがシートのリザーブもしてあるので慌てることはない。それにシャトル便はこの二階ロビーフロアに直接エアロックを接続するので、移動時間を考えなくていいのだ。  悠々と煙草を吸いながら窓外を眺める。白いファイバブロックを敷き詰めた宙港面には、見た目てんでバラバラに様々な大きさや色、形の宙艦が停泊していた。それらが時折糸で吊られたように飛び立ち、またしずしずと降りてくる様子は、まるで透明な巨人がチェスでもしているようで、なかなかに面白い光景である。  煙草を二本灰にすると、手を振るハイファに急かされて長蛇の列に並んだ。順番がきてチェックパネルにリモータを翳し、チケットと各星系法務局共通の武器所持許可証を読み込ませてクリアする。エアロックをくぐり客室のシートに二人並んで収まった。  CAが配るワープ宿酔止めの白い錠剤を飲み込むとアナウンスが入って出航だ。二十分の通常航行で一回のショートワープ、更に二十分の四十分でタイタン第一宙港に着の予定だ。 「シド、貴方何処も怪我してない?」 「ああ。お前こそ大丈夫か?」  三千年前に反物質機関の発明と、それを利用したワープ航法を会得したテラ人だが、未だにワープの弊害を克服したとは言い難いのが実情だ。こうしてワープ前には薬を飲むのが一般的な上、星系間ワープともなると一日三回までが常識とされている。  勿論それを超えることも可能だが、プロの宙艦乗りでもなければやめた方が得策だった。ツケは躰で払わなくてはならないからだ。  更に怪我の的確な処置を怠ってのワープは厳禁、亜空間で血を攫われてワープアウトしてみたら真っ白な死体が乗っていたということにもなりかねない。  互いにタマに引っかかれた傷は消毒した上に人工皮膚テープで厳重に覆ってある。  頷き合って出発を待ったが、それはいつの間に始まったのか分からないくらい静かで揺れもなかった。  窓側に座ったシドは窓外の光景に見入る。
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