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約束通り、二人はコンビニでチョコを買った。対話の準備は万端。目指すは、公園だ。そんなわけで、玲と姫毬は近所の公園へと移動した。
閑散としている公園には、誰もいない。二人は空きだらけのベンチの中からひとつを選び、並んで座った。
「で? 相談ってなんだよ」
「うん……」
スクールバッグからチョコの袋を取り出し、開封してから姫毬に渡す。
姫毬はチョコを一粒受け取ってから、玲を見た。
「あのね、れーくん。『笑わない』って、約束してくれる?」
「努力する」
「『怒らない』って、約束してくれる?」
「努力する」
やけに念を押してくる。いったい、どんな相談なのだろうか。続いてチョコを一粒手に取った玲は、ジッと姫毬を見た。
「わたしね、その……」
珍しく歯切れの悪い姫毬のせいで、妙な緊張感が漂う。重たい空気に耐えられず、玲は音を立てずに唾を飲み込んだ。
顔を上げた姫毬が、玲を見る。そして、口を開き──。
「──バスケ部のキャプテンさんに、告白された……かも、しれなくて」
「──なぜに不確定?」
なんとも気の抜ける本題を、口にした。
ガクッと、玲は肩を落とす。間髪容れずにツッコミを入れてしまうほど、フワフワとした本題だったからだ。
今の説明だけでは、圧倒的に足りていない。さすがに自覚があるのか、姫毬は自分らしい言葉で事の経緯を説明し始めた。
「今日のお昼休み、お友達に『屋上前階段に来て』って言われたの。あっ、その『お友達』は、さっきわたしが隣の教室で喋ってた子ね? その子、バスケ部のマネージャーなんだ」
「へぇ」
「それでね、言われた通りに屋上前階段に行ったの。そうしたら、そのお友達じゃなくてキャプテンさんが居たの。『マネージャーに頼んで千嶋を呼んでもらった』って言われて、わたしビックリしたんだ。だって、バスケ部のキャプテンさんだよ? わたし、面識なんてないもん」
「だろうな」
「それでね、てっきり『バスケ部の勧誘かな』って思ってたら、キャプテンさんが『付き合ってほしい』って言うから。だから、わたし……」
「おう」
「──わたし、バスケ部の買い出しのお手伝いだと思って『今日の放課後ですか? どこに付き合えばいいでしょうか? あっ、でもでもっ、お手伝いをしてもわたしはバスケ部のマネージャーにはなりません!』って言ったの」
「──同情するわ」
無論、キャプテンさんに。玲の感想は、一言に全てが詰め込まれていた。
さすが姫毬だ。ひとつのエピソードが、姫毬らしすぎる。玲は手に取ったチョコを口に放り、咀嚼した。
「……で? どのタイミングで『告白だ』って気付いたっつぅか、そう思ったわけ?」
「キャプテンさんが凄く落ち込んで階段から降りて行っちゃって、わたしもお友達がいる教室に戻ったら、そのお友達に『付き合うことにしたの?』って言われたから、正直に『行き先教えてもらえなかったよ』って答えたの。それで、お友達にガーッと説教されました」
「同情するわ」
無論、姫毬の友達であるバスケ部マネージャーに。やはり、玲の感想はこの一言で十分だった。
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