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しかし、妙だ。玲はシュンと縮こまっている姫毬を見る。
「それで? どこが『相談』なんだよ。聴いた感じ、もう解決してるっぽいじゃん」
バスケ部のキャプテンから告白されたが、姫毬は【それが告白】だと気付いていなかった。つまり、キャプテンからの告白はスタート地点にも立てなかった、ということだ。
なんてことはない。この話は、既に終わっているだろう。玲の問い掛けは正論に違いない。
「えっと、そう聞こえるかもなんだけど、そうじゃなくて……」
だがどうやら、姫毬の中では違うらしい。突っかかりがあるようだ。
姫毬は包みに入ったチョコを指先で弄びながら、ポソポソと【相談】を呟いた。
「わたし、ちゃんとキャプテンさんを振ってないなって思って。……どうしたらいいかな、れーくん?」
「──俺至上四天王レベルで知らねぇーっ」
「──えぇ~っ! ハクジョーだよっ、れーくんっ!」
せめて【薄情】と漢字で書けるようになってから言え。二粒目のチョコを食べつつ、玲は思う。
途端に興味を失くした様子な玲を見て、姫毬はブンブンと両手を上下に振り、必死のアピールを始めた。
「だって、たぶんだけど一生懸命告白してくれたんだよっ? だったら、わたしもきちんと真剣に答えなくちゃって思うでしょ? 思うよねっ?」
「さぁな、知るか」
「人に『好き』って告白するのはすっごくすっごく勇気が要ることなんだよっ! 気付けなかったわたしは悪かったけど、でもでも、気付いたなら今からでも返事をした方がいいよねっ? でも、そうするとキャプテンさんをもっと傷つけちゃうのかなって……。ねぇ、れーくんはどう思うっ?」
「知らねぇよ自分で考えろバーカ」
「──あぁ~っ、怒ってるっ! さっき『怒らない』って約束したのにっ!」
「──怒ってないですー、呆れてるだけですー」
メッセージを受け取ってから数時間続けていた心配を返してほしい。心底、玲はそう思う。
それでも、隣でキャンと吠える姫毬を放置はできない。玲は『心底呆れています』と顔に描きつつ、涙目の姫毬を見た。
「っつぅか、そもそも呼び出しに誰かを使う時点で真剣じゃないだろ。本気で告白したいなら、自分の力でチャンスを作れっつの。友達から呼ばれたと思って約束の場所に向かった姫毬に悪いと思わねぇのかよソイツ。詐欺だろ、詐欺」
「れーくん、本当に怒ってないんだよね?」
「姫毬には怒ってねぇよ」
そこそこ真面目な回答をしてみたものの、姫毬の悩みは解決していない様子だ。その証拠に、姫毬は「うぅ~ん」と唸っている。
玲は深いため息を吐き、姫毬から顔を背けた。
「……じゃあさ。いっそのこと、姫毬も友達に伝言を頼めばいいんじゃね?」
「わたしが? なんて?」
なぜ、玲がここまで姫毬を心配しているのか。
幼馴染みと言う腐れ縁だから? ある意味、それも正解だ。
だが、違う。仲のいい男友達が相手でも、きっとこの数時間分の心配を玲は向けてあげられないだろう。
玲が、姫毬を心配する理由。姫毬を騙すかのように呼び出しをしたキャプテンに対して、玲が腹を立てている理由は……。
「──『幼馴染みな彼氏がいるので、他の人は眼中にないです』って」
実に、単純。玲と姫毬が幼馴染み兼、恋人同士だからだ。
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