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私はその夜、図面引きが終わらず、大きな紙の束を抱えて帰路を急いでいた。急ぎで直さなければならない所があるのに、まだ半分くらいしか終わっていない。
暗い道にさしかかり、早足で通り過ぎようとすると、道の端に置かれたゴミを回収する大きな籠に、何かが蠢いているのが見える。
ニョロっとしたものが緩く揺れているが、暗くてなんだかわからない。
蛇の交尾玉とかだったらトラウマものだ。
「にゃあ」
闇の中で目だけが煌く。
可愛げのない低い声だ。
「はぁ、猫か」
いや、猫にしては大きくないか?
「ねえ、猫だよ。捨てられてかわいそうな猫だよ。拾わないの?」
大型の猫らしい生き物が話しかけてきた。
「はぁ、猫の獣人か……紛らわしい」
うっかり、付き合いよく言いなおしてしまった。
猫の獣人は夜中に活動すると聞いていたが、実際に出会ったのは初めてだ。
「にゃあって言ったほうがそれっぽいでしょ? 語尾にニャンてつけたほうがいい?」
拾えと言われても、飼い方がわからないもんなー。
「間に合ってます」
飼えないものは拾わないの一択だ。
「え? 先住猫がいるの? そんな爛れてるとこには行けないなー」
「爛れてるってなによ。そもそも猫なんか家に入れないわよ」
「一戸建て?」
「そうだけど」
鼻をピクピクとさせる。
「彼氏いないでしょ?」
いないけど、今、何を嗅いだ?!
「……」
心当たりを考えてみるが、いずれにしても非常に不愉快だ。
「じゃぁ、飼ってよー」
ちっとも可愛くない甘えた声を出す。
「飼えないものは拾えません。悪しからず」
――先を急ごう。
私は何も考えないようにして家路を急ぐ。
獣人愛護法というものがある。
詳しくは知らないが、拾った獣人は、責任をもって飼うか、里親を探さなければならない。
罰則が厳しいので、街の人達は無闇に獣人を拾ったりしない。ついてこられても獣人が里に戻っていくのを待つのが普通だ。
最近は金持ちの女性が犬科の獣人を飼って、連れ回したりするのが流行っているようだが……それって、どうなの?
習性的に問題が無いのならギブアンドテイクなのかな。
イヌ科の話は聞くが、ネコ科の獣人を連れて歩いてる女を見たことがない。男女逆は時々見る。
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