犬より猫が好きな理由

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 ネコ科の雌をこそこそと家に置いていたら、季節になって近所迷惑で揉めたという話も聞いたことがある。  ネコ科がこの感じじゃぁ、イヌ科の獣人の人気が高いわけだ。 「怪我してるんだよ。助けてよー」  通り過ぎた後ろから哀れっぽい声が聞こえる。  さすがに怪我人を置いていくのはどうかと思って足を止める。 「手がいっぱいだから今は無理」  これは本当だ。 「死んじゃうよ!」 「元気そうじゃない」  疑いの目で見ると、仮病がばれたと思ったのか「お嬢さん、猫、可愛いよ、猫」と今度は猫撫で声で呼ぶ。 「私、犬派なんで」  嘘だけど、と心の中で付け加える。 「えー、犬派なの? それは、だいぶ変態だね」  何をもって変態と言うのか知りたくもない。  人種が違うだけでなくて、言葉も通じないようだ。  私は耳を塞いでその場から立ち去った。 ✳︎  半刻後、私は庭仕事用の猫車を転がして件の現場に戻ってきた。  雲が流れて、明るい月が出てきていた。  戻ったはいいが既に立ち去った後だった、というのを期待していたのだが、残念ながら月影に形の良い艶やかな真っ黒い耳が照らされている。眠っているのか意識を失っているのか、息が熱い。    戻ってきたのは、放置して死んだりしたら寝覚めが悪いから――それだけだ。  私は猫獣人を()()()わけじゃない。  これはあくまで保護だ、保護。  ため息をつきながら、猫をゴミ籠から担ぎ出す。猫なんだから可愛いサイズであるべきなのに、でかい。むしろ長い。  ゴミを回収したすぐ後だったからか、猫以外のものが入っていなかったのが救いだ。  人を運ぶには小さな猫車に猫を乗せる。当然、はみ出るが仕方がない。  疲れた体に鞭打って猫車を押せば、タイヤがへしゃげゴロゴロと猫が喉を鳴らすような音を立てる。今はその音が暗い暗示にしか思えない。  魔術道具の荷車なら軽く押せるのだろうが、図体のデカい人状のモノを運ぶことは想定していなかったし、趣味のガーデニングごときで高価な魔術道具は買えない。  どちらにしても、こんな作業これっきりだ。  自宅に戻った頃には日付が変わっていた。  「ああ、もう、なんて日なの!!」  ぼやきながら、長くて重い黒い猫を書斎のソファに転がす。   (……どうしよう、どえらいものを拾ってしまった)
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