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お願いだから、触るたびにお尻の穴をきゅっと動かさないで欲しい。
綺麗な米印がきゅっきゅっと動き、気が散る。散りまくる。
現実的なことを考えようと、ノミがついてるかも、などと思いながら尻尾の毛をかき分けて地肌を撫でていく。
途中でやけに艶かしいため息がきこえたけれど、聞かなかったことにしよう。
医療行為だから、ほんとに!
小さな擦り傷しか見当たらなかったので、尻尾は開放する。
はぁ、精神的に疲れた。
頭部の傷も確認しなくてはならないだろうか。
獣人というからには獣臭がするのかと思っていたが、ひなたの匂いがするくらいで嫌な匂いはない。飼い犬のような香ばしい匂いすら無いのだ。
柔らかい、正に猫っ毛をかき混ぜて傷を探す。
人間と見た目はほとんど変わらないのに、骨格はかなり異なる。違う進化をたどったのを肌で感じ、博物学的な感動を覚える。
骨をなぞると、人のものよりもだいぶ大きな窪みにたどり着く。
繋がっているのは耳!猫耳だ!
くぼみから軟骨が生え、軟骨は短い毛がびっしり生えた耳介へと繋がる。
髪で見えないが、耳の周りには筋肉らしき弾力がある。これで耳がぴこぴこするのか。
恐る恐る触ると、耳の向きを変えられてしまうので、むんずと一気に掴む。
無傷を確認して、顔も拭いてやる。左右対称性に優れたいい顔だ。黒猫の目の色は何色が似合うかな。
だが、それを確かめる術はない。
だって、もう会わないから!!
猫獣人から剥ぎ取った、汚れた服を洗濯の魔術のかかった壺に入れ、水を入れる。
魔術道具は便利だが、セットで揃えないと不便な所はある。
家を買って、一人暮らしに必要なものだけ取り急ぎ揃えたが、水回りはまだ自動にはなっていない。洗濯は組み上げポンプで地下水を汲み上げて運んでこなければならない。
水さえ入れれば乾かすところまでやってくれるのだから文句は言うまい。高いお金を払っただけのことはある。
お金が貯まったら、次は水の扱いが楽になる魔術道具を買おう。花壇に水を遣るのが楽になるし、洗濯も捗るだろう。
乾かした服を猫男を寝かせたソファの近くに置き、水と食べ物――何を食べるのかわからないので、朝食用に買ってあった牛乳とパンとハムと果物を置く。
窓を開け放ち、応接室のドアは外から鍵をかけておく。
食べたら出て行けよ、というわけだ。
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