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猫の獣人はやっと陰部をしまって、一つ伸びをする。
「はぁ? 通報……なんでよ。私が被害者でしょ」
通報という言葉に怯む。
一軒家に引っ越してきてから、ご近所付き合いは大事だと痛感している。
近所に通報されるようなことをしたら、割と痛手だ。悪事千里を走るだし。
「拾った獣人は飼うか、里親をみつけなければならないのをご存じないと?」
猫獣人は目を糸のように細めて笑った。
獣人は飼い主やテリトリーに執着が強い。だから、拾って飼わなかった時のトラブルが尋常ではないのだ。
拾った獣人を飼わないと、社会に迷惑をかける。
飼い主に執着するタイプだと、飼い主に近づいた人が嫉妬で噛まれたりする。テリトリーに執着するタイプだと、この状態だ。
無理に追い出そうとするとマーキングされる。
縄張りの範囲が広がれば、近所迷惑になるのは目に見えている。
「拾ったんじゃないわよ、怪我してるって言うから一時的に保護してあげただけじゃない!
窓も開けといたから勝手に出て行ってってことよ」
「そうかなぁ? あんなに丁寧にグルーミングされて、ごはんを貰ったら、俺を家族にするんだな、と思うでしょうが」
縦に長い男が口を尖らしても可愛くなんかない。
「思わないわよ! ってか、あんた、昨日は寝たふりしてたの? すっごく重かったんだから!」
猫は目を細めて、ニヤリと笑う。
「ご主人に撫でられて、いい気分になっちゃって、起きるの億劫になっちゃってさ~」
私は愕然とする。あのグルグルはそういう意味だったのか。
「熱があったんじゃないの?」
「ご主人、猫の獣人がヒトより体温が高いのを知ってる?」
「んがぁっ!! じゃあ、怪我って擦り傷だけ? あああぁ、なんなのよ、放置しとけばよかった……」
私が頭を抱えるのを横目で見ながら、日の当たるガーデンセットの椅子に膝を抱えるようにして座り込み、尻尾をくるりと体に巻きつけて、動くつもりがないのを主張している。
「家も日当たりいいし、ご飯も貰ったし、イヤらしく撫でてくれるご主人のことも気に入ったので、俺は今日から飼い猫になります!」
右手をグーのまま太陽に掲げ、高らかに宣言する。
「ちょっと、ここは私の家なのよ。私に選択権はないわけ? 勝手にテリトリーにしないでちょうだい」
これでは猫に家を乗っ取られかねない。
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