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正体不明の段ボール箱が送られたのは、それから2週間後のことだった。
その日は居酒屋のバイト終わりだったため、深夜に自宅アパートについた。
低家賃と大学から近いことが売りの古い木造のアパートの狭い部屋の真ん中にあるこたつ机の上に、それは置いてあった。大きさは1辺が30センチほどの正方形の黒の段ボールで、持ち上げてみると、とても軽かった。
ちっ、と短い舌打ちが出る。
部屋の扉の横の植木鉢の下に合鍵を置いていることを知っている誰かのいたずらだと思った。
バイトの疲れもあって、俺は素手で乱暴に梱包を破いて中身を取り出した。
中には、小さなアタッシュケースのような銀色のケースが入っていた。
考えもなしに、そのアタッシュケースのパッチン錠を開いた。鍵穴はあったが鍵はしまっておらず、簡単に開いた。
まず目に入ったのは、1枚のA4の用紙だ。
山内 宏弥 様
おめでとうございます。2番を選んだ方の中からあなたは選ばれました。ここにある薬を飲めば、瞬間移動できる能力を得ることができます。しかし、副作用として、同時に片目を失明してしまいます。この薬を飲むも飲まないもあなた様の自由です。
真っ白なA4用紙の下には、黒色の緩衝材が敷かれており、その真ん中には、オレンジ色の錠剤が一錠だけあった。見た目は、市販の風邪薬と何ら変わらない。
「めんどくせぇな、誰だよ」
不満をこぼしながら、用紙をくしゃっと丸め、ゴミ箱に投げ捨てようとした時、ふとあることを思い出した。ツイッターでのあの4択アンケートだ。
たしか、次のうち、どの薬を飲んで超能力を得るかという質問だった。
たしか、西田がリツイートしていたアンケートだ。
捨てようと丸めていた用紙を開く。俺が選んでいたのは、2番、片目を失明するが、瞬間移動できる能力を得る薬、だ。
ツイートの内容も用紙の内容も一致する。
俺は、ごわつく頭をかきむしった。
「西田の仕業か」
西田は、同じ学科に所属しており、入学当初からつるんでいる。よく、講義をサボって一緒にパチンコに行くから、留年ぎりぎりを過ごしていたが、今回の期末テストで、俺も西田も留年が決まった。来年は二人仲良く3回目の3回生だ。
すぐに連絡を取って、問いただそうかと思ったが、明日、西田が家にやってくることを思い出し、やめた。
今は少しでも早く、バイトの疲労から解放されるために寝たかった。
結局、用紙を薬の入ったトラッシュケースの上に戻し、そのまま机の上に放置した。
狭い浴槽でシャワーを浴び、髪を乾かさずに、倒れ込むように眠りについた。
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