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いつもの作戦はこうだ。
西田は触れたものも一緒に宙に浮くことができる。俺の能力も同様で、俺に触れているものは共に瞬間移動することができる。そこで、西田の能力で空を飛び、中が見えるところ(ターゲットが高層ビルだったから、その部屋の窓ガラス)から、俺の能力で侵入する。
あとは、現金や金目の物を盗み、侵入した方法と同様の方法で脱出する。
能力の存在を知らなければ、完全犯罪だ。
ターゲットは、ネットで調べた裏社会の人間や、黒い噂が絶えない著名人にした。情報を集め、住所を特定し、下見の後に実施する。
マルチ商法のアジトに侵入した時は、組織の一員であろう男に出くわした。最初は焦ったが、瞬間移動で男の背後を取ると、護身用に持っていたスタンガンを頚部に押し当てた。男は何が起こったのか把握できていないような形相でその場に倒れ込んだ。その時から、俺の能力を最強だと、自分の能力に酔いしれるようになった。
初めの頃は、ただ少額の金品(といっても数百万程度)を盗むだけにとどまっていたが、部屋を荒らしたり、「お前の悪事をずっと見ている」と書いた置き手紙を添えるようになった。
今では、盗んだ総額も5000万を超えていた。
ターゲットは悪人とは言え、少なからず負い目を感じていた俺は、その一部を適当なボランティア団体やクラウドファンディングに寄付するようになった。
気づけば、夏は終わり、金木犀の香りも薄くなって冬の到来を予感させるような日が続く季節になった。
この頃には、俺も西田も大学にはほとんど行かず、悪者から金を奪ってはその金で遊ぶ生活をしていたが、その生活にも多少の退屈を感じ始めていた。
次のターゲットは、国内に拠点を置く新興宗教団体の本部だ。
週刊誌に、「宗教団体の仮面をかぶった収奪団体」との題名で、取り上げられると、その悪質な献金の実態が明るみに出た。しかし、ものの数週間でその炎上も鎮火した。ネットでは、巻き上げた多額の金でその献金問題をうやむやにしたと、皮肉めかした噂が流れていた。
「信者を困窮させ自らの私腹を肥やす、か。何が神様だよ。なあ、西田、こいつらに本当の神の裁きを与えないか」
俺は、泥棒の代名詞のような黒の覆面マスクをかぶりながら、西田にそう言った。
「なんだそれ?」
「あいつらの本部の金品すべて奪う。それと、こいつらの本部には、デカい祭壇がある。それをぶち壊そう。そしたら、さすがのあいつらも堪えるだろ。またニュースで取り上げられて、今度こそ解体させてやる」
「オーケー、面白そうじゃん。やろうぜ」
白く巨大な建物は、田舎の小さな山の中で存在感をこれでもかと放っていた、
その巨大な建物の上層階から、俺たちはいつもの方法で、易々と侵入した。
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