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さっきの部屋から音楽は聞こえるけど、今は誰も歌っていないようだった。
ドアを大げさなくらい強くノックしたけど、返答はない。
仕方なく、ドアノブに手をかけてガチャッとドアを開けた。
俺たちの部屋よりも少し広くて、
ソファーも一回り大きい。
さっき出て行った男はまだ戻ってきてなくて、中は2人だけだった。
ドアを開けられたことにも気づいていないのか、男は小春の腰に手を回し、ぴったり密着して、頬が付きそうなくらい近くで、
耳に何かを囁いている。
「小春?」
俺が声をかけると、二人は同時に振り向いて、男は瞬時に小春の身体を離した。
「ごん……なんで……?」
驚いて見開いた小春の目は、潤んでいるように見えた。
今出た涙じゃないよな……。
「ダレ?」
男は怪訝な顔をして、低い声で言う。
「いきなりごめん。
小春と同じ学校で……。
ちょっとだけ小春を借りていい?」
「は?」
「小春、話がある」
俺は小春に近づいて、手首を掴んだ。
ソファーから引っ張り上げようとするけど、小春の体は全く動かない。
「ヤダ。私は話なんかないよ」
小春は俺の手を、思いっきり振り払った。
「嫌だってさ」
男は半笑いで言って、
さっき離した腕をまた小春の腰に回す。
「あのさ、小春の意思でここにいるなら俺も止めないけど。そうじゃないよな?
好きでもない男にベタベタされて平気なわけないだろ?」
小春は視線を外して首を横に振る。
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