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「高層マンションから花火大会を見せて貰い、その後バッチリ家まで送って貰いました」
大人の階段は登らなかったが、恋人の階段は確実に昇った。これでチェックメイトだと思った。
「付き合ってる。もう、それは付き合ってる」
「ですよねっ!! だから、私。満を時して。今日、夏休みの終わり直前に告白したんですっ! なのに振られてしまって……うぐっ。何が『そんな風に見れない』のか、意味が分からないっ! ってか、どんな風に見てたか白状するまで、今から家に押し掛けて、バカ浅野が泣くまで窓から蝉を投げ入れてやりたいっ!」
「小林の抗議はごもっともだが、高層マンションの窓に向かって蝉を投げるのは無理なんで落ち着きなさい。せめて、下のポストにみっちり埋めるぐらいにしなさい」
でも、実は、その。と先生はもごもごと口籠った。ひょっとして──。
「今ゲップしたら先生でも許しませんから。とりあえずポストに蝉を……はい。そうします……でも。先生、私、迷惑だったのかなぁ……悲しいです……もう恋なんてしたくないです……」
自分で言っていて悲しくて、胸に募る想いがパチンパチンと弾ける。やっぱりファンタとか飲むんじゃなかった。今後二度と飲むものかと思った。
痛みを堪えると、目から雫が溢れる。
なんと出来損ないの体だと情けなくなる。
「なぁ、小林。実はだな。今日の清掃当番、最初はお前と浅野コンビじゃなかったんだよ」
「え?」
「浅野がな。最後の思い出作りに当番を変わって欲しいって、申し出があったんだよ」
なんだそれと、思っていたら先生が席を立って、窓際に立ち。
これは独り言だーと、何やら喋り出した。
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