小林聡子の終わり

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ふわりと、机の上と上履きの接着面が離れた瞬間。 「逝くなぁ──ッ!」 え。 声と私の疑問が重なった刹那、私の胴にがっしりと腕が回ってバックドロップを仕掛けられたごとく、勢いよく教室の中に引き戻された。 机と椅子を薙ぎ倒して教室の床に沈められてしまい、体が痛かった。 それにびっくりして声も出なくて。 私の胴体に巻き付いた両腕が、そのまま胴体を切断するんじゃないかと思う程に力が強くて苦しかった。 「バカっ! 小林っ! お、お前。なにをしようとしてんだっ! お前はバカだけどバカじゃない奴だと思っていたが本当のバカだったのかっ!! このバカっ!」 私をバカバカ言って来たのは担任の先生だった。 「せ、せんせ」 苦しいです。 あとバカバカバカ言い過ぎです。 「お前なぁっ! 何があったが知らんが、死んだらダメだ。バカでも生きろ。死ぬのは一番バカだ。ご両親だって、クラスメイトだって、俺だって悲しいだろうがっ! この大バカっ!」 とうとう大バカになってしまったが、先生は涙目で必死に訴えてきたのと、私を離すまいとする腕が微かに震えていたので甘んじて誹りを受けようと思った。 (でも。先生。私、失恋しちゃったの。あれだけ浅野と仲良くなっていたのに。私だけが好きだった。それが死ぬほど辛いの) そんな事は口に出せず。 夕方の朝顔のようにしょぼくれながら「すみません。気の迷いです。思春期なんで許して下さい」と、言ったらやっと手を離してくれた。 「バカ! 思春期のせいで死なれても納得する奴なんか居ない。それに──ほら、その。お前と仲のいい浅野だって納得するどころか、何してんだバカって怒るぞ!」 「……あさの……」 あさの。 その禁句ワードに私の涙腺はいきなり崩壊した。ぶわっと涙が溢れていきなり体が震え出した。 「ど、どうしたっ。小林」 「うっ、うぁぁぁっ。せ、先生っ。私、浅野に振られたんですっ。そ、それでか、悲しくてつい……、ご、ごめんなさいっ──」 「え、えぇ!?」 「わぁぁぁぁっ」 一度決壊した涙腺は止める事も出来ず、その場で蝉よりも激しく泣いてしまったのだった。
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