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ところで、天界の下に広がっている地上は、まだまだ未熟で固まってすらいなかった。そのさまは、水に浮かぶ油のようでもあり、大海に漂うクラゲのようでもあった。そこに、葦の芽が萌えるかのごとく現れ方で、またふたりの神がぬるるっと生まれ出た。
ふたりは頭上を仰ぎ見ると、いっきに天界まで飛びあがった。そのときも天之御中主神は、神ABと酒を酌み交わしていた。
「はじめまして、宇摩志阿斯訶備比古遲神です」
「どうも、どうも、天之常立神です」
愛想よく挨拶してきたふたりの名前は、神Aと神Bに負けず劣らずの覚えにくさだ。天之御中主神はふたりを神C、神Dと呼ぶことにした。
「あ、お酒飲んでるんだ。いいなあ」
「美味しそう。仲間に入れてくれない?」
神CとDのふたりも無類の酒好きで、天之御中主神たちとすぐに親しくなった。
天之御中主神を含めたこの五人の神は、のちに『超絶大神五柱戦隊』の俗称で呼ばれるようになった。正式名は『別天津神』という。
あるとき、天之御中主神は超絶大神五柱戦隊のメンバーを誘って、いつものように酒盛りを開いていた。すると、神Aが手酌しながらこんなことを言いだした。
「前々から思ってたんだけどさ、身体があるのって、ちょくちょく面倒だったりしない?」
天之御中主神は神Aに同意した。
「確かに面倒だよね。毎日着物を着たり脱いだりしてるけど、そういう手間も身体がなければ必要ないし」
他の神も身体に不満を抱いていたらしく、天之御中主神に追随した。
「あー、わかるわー。毎日の繰り返しだから、ほんとに面倒くさいよね」
「面倒くさいだけじゃないよ。身体があるだけでつらいことも増えるよ」
「そうそう、それなー」
「寒かったり暑かったり、痛かったり痒かったり。そういうのがあるよねー」
「身体があると病気なんかにもなるよね。身体って誰得なの?」
身体への不平は尽きない。しばらくみなでぼやき合っていると、神Aが「そうだ」と閃いた顔をした。
「ねえねえ、天之ちゃんてさ、最初に生まれ出た神さまだけあって、神通力が半端ないじゃん。超絶大神五柱戦隊の中でもずば抜けて一番だし。その神通力をちょいちょいと使ったらさ、身体を捨てて魂だけになれたりしない?」
「あー、なるほど。魂だけにね」天之御中主神はいい考えだと思った。「たぶん、魂だけになれると思うよ。試しにみんなで身体を捨ててみる?」
他の四人が揃って頷いたのを確認した天之御中主神は、ちょいちょいと神通力を発動した。たちまち五人の身体は消えてなくなり、希望どおりに神霊だけの存在となった。
その直後だった。突として神さまビッグバンが起きた。姿を消した天之御中主神たちとは裏腹に、新しい神が次から次へと生まれ出たのだ。
まずはふたりの神が続けてポンポンと出現した。ついで男女一対の神が五組誕生した。それらの神は天界に住まう天津神ではなく、地上に住まう国津神だった。
この国津神たちを合計すれば十二人だが、最初のふたりはひとりで一代とし、以後の神は男女一対で一代とした。ゆえに彼らは七代であり、『神代七代』と呼ばれようになった。親しみをこめて『神セブン』と称されることもある。
また、神セブンの最後に生まれた出た男女一対の神は兄と妹だった。兄の名はイザナギといい、妹の名はイザナミといった。
イザナギはすらりとした長身の持ち主で、切れ長の目が精悍な印象を与えていた。イザナミは小柄でどこかあどけないが、白い肌には得も言われぬ美しさがあった。ふたりは魂を共有しているかのように仲が良く、いつも寄り添い合っている一心同体の神だった。
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