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高木の商売は嘘のように上手くいった。
その一方で、ワクチンの副作用で多くの人命も失われていた。
しかしその死は全てその伝染病ウイルスによるものとされ、誰もその死体に手を触れることはできなかった。
これも契約の一部である。
絶対に一般病院で死後の解剖をしてはならない。
交通事故だろうが火事による火傷だろうがウイルスの陽性反応が出た場合、それは感染による病死とされ、一切の解剖や検死は禁止されていた。
しかし、実際にはそのうちの副作用死と思われるものは解剖され、そのデータは世界中から高木の会社へ報告されていたのだ。
これも契約の需要事項として記載されていた。
人体を使っての臨床試験がこれほど世界規模で実施されたことはない。
この臨床試験データは、今後の薬品開発にかなり有用なものとなる。
高木の会社が仕掛けた世界規模の販売プロモーションは成功した。
高木は当初予想されていた日本の販売本数を遥かに超える実績を出した。
契約金額はその時点で五兆円を超えていたが、これには、日本人の、マスコミを疑わない性質が大きく貢献していた。
高木自身、マスコミは日本人をこれほどまでに思い通りにできるのかと驚いていた。
更にこの事で、日本人の心の中に治療より予防優先という意識をしっかりと刻み込む事にも成功した。
これは今回のプロモーションにおける副次的な目的ではあったが、それも予想を超えた深いレベルで日本社会の深層心理に打ち込まれた。
これ以降、日本ではこれまで罹患率がそれほど高くなかった疾病に関しても、症状の辛さを煽るだけでワクチンが売れる。
健康な人間が自ら病院へワクチンを求めて行くのだから、製薬会社を始めとする医療業界にとってこれほどおいしい話はない。
後は巧妙に時期を考えながら、一つ一つそれらしい疾病をマスコミに紹介させるだけでいい。
できるだけ症状の酷さを訴えるように。
そしてそれを予防できるワクチンがあると最後に付け加える。
それで十分だ。
一度でもワクチン接種すれば、それでいい。
上手い事に、ワクチンは永久には利かない。
半年に一度程度、死ぬまで打ち続けることになるのだから。
神をも恐れぬ世界的プロモーションも落ち着き、史上空前の売り上げを出し続けていた会社の業績がマイナスに転じた時、高木は次の手を打つことにした。高木はスマホを取ると、部下に告げた。
「次の段階へ移る。最初は、帯状疱疹からいこう」
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