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2 友人という名の知り合い
「ねえ、何でこんなトコで貴族令嬢が働いてるのよ?」
裕福な商家の長女だという彼女は、学園の平民クラスに通っていた女性だ。
卒業しても家族の目を盗んで、カフェで働く私を見つけて手招きした彼女は声を潜めて私にそう聞いてきた。
頭の良い女性なのだろう。
ちゃんと周りに配慮して肝心な部分は聞こえないくらいの小声にトーンを落とす。
理由を話すと眉を下げて『そう』と一言だけ返された。
「何か相談事があれば言ってね。力になれるかは分からないけど」
そう言って席を立ち支払いを済ませて出て行った。
後ろ姿を見送りながら、きれいに整えられた爪や髪の毛を思い出す。
私のほうが平民で、彼女のほうが貴族令嬢みたいだと思って何だか不思議だった。
「お前に縁談だ」
珍しく父親に夕食後に呼び出された。
台所で皿洗いをしていたので、慌ててエプロンを外し執務室に入ると開口一番に頭の具合を疑ったほうがいいんじゃないかと思うような内容を言われて首を傾げた。
私はこの伯爵家の嫡女であり、唯一の跡取りであり、この人は中継ぎの当主でしか無い。
言うならば借物の偽当主。
彼には決定権がなく、私が嫁ぐのなら陛下の判断を仰がなければならない。
嫡女を嫁がすということは両家にとって余程条件が整わなければあり得ないはず。
「相手は公爵家。我が家とは格が違う」
彼はそう言って、15歳も年上の放蕩息子の嫡男が継いだばかりの公爵家の名前を告げた。
成る程。
お飾りの妻だと思った。
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