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5 庭
初日に公爵家の正門から堂々と入っていくツヴァイさんに肝を冷やしたが、執事長に紹介状を渡して今日から通いで専属のメイドとして仕事を仕込むように伝えていたので、大人しくメイドとして振る舞った。
使用人としての午前と午後の賄いは公爵邸で取る事になり、夕方伯爵邸に帰って召使いの仕事をしても疲れなくなった。
食事はいつも家族の残り物を食べていたから、不規則だったり無い時もあったから。
「花嫁修業は進んでいるか?」
2週間を過ぎた頃、父親の一言で何故公爵邸に通えたのかが分かった。
「全く、我が家も人手が欲しいというのに。お前がいなくなると召使いが足りなくなる・・・」
誰の采配なのかは分からないが、問題なく公爵邸に通っていいらしい。
ここへ来てやっと何だか安心できた気がした。
「君、新しいメイド?」
庭に度々花を貰いに行く様になると話しかけてくる若い庭師がいた。
少しだけ隣国訛があるせいで無口だと他のメイド達から聞いていた。
『はい。此方に来月輿入れされる奥様のメイドです』
隣国の言葉でそう返すと驚いて目を見開く彼。
貴族の子息達と違って逞しい身体付きに、よく日に焼けた肌は健康的で好ましいと思っていたので、子供のように驚いた顔がよりいっそう可愛く思えた。
『隣国の言葉がわかるの?』
『ええ、いつか行きたいと思っていたので覚えました』
『何で?』
『? 海を見たいのです。この国にはありませんので』
隣国には海があるというのを聞いていた。
この国には無いので、一度は見てみたいと思っていたのでこれは嘘ではなかった。
『ああ。そうだねこの国は海に面して無いからね』
そう言って彼はニコリと笑った。
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