君が届かなくて

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「…秀明。」  誰だ、うるさいな。 「秀明ったら。起きてよ。」  高山秀明はうっすら目を覚ます。自宅で昼寝してる間に誰か潜り混んだらしい。 「…聴いてよー、秀明。」  そういって女は秀明の首に手を回す。 「ひどいのよ、旦那ったらね…」  百合の旦那の不満話がまた始まる。毎度毎度聴かされる秀明はもう、話し半分だ。それでも丁寧に相づちを打ってると、どんどん百合はしなだれかかってくる。 「また旦那と喧嘩?」 「ううん、そんなんじゃないの。」  そうして薄着になった百合は秀明にのしかかる。 「ただね…秀明がどうしてるかなーって」  百合は、秀明の初恋だ。祥太には嘘をついた。高校の頃から一緒だった。二十五になって告白したら、秀明をそんな目では見てないと言われ、そのまま結婚してしまった。結婚して落ち着くのかと思ったら、急に秀明に接近してからだの関係を持つような女だった。主婦生活が毎日暇なのだろう、と予想はついたが、秀明は男として拒まなかった。いつも百合は勝手に秀明の安アパートにやってきては、たっぷり楽しんで帰ってく。秀明は死ぬように百合にサービスした。百合も喜んでくれたが、結局旦那のところに帰ってく。この頃から、秀明はなにか狂ったように男遊びを始めたのだ。 「わたしには秀明しかいない。旦那はあてにならない。」  嘘でも百合にそういわれると嬉しかった。こんな女を好きになったのだ。今でも会うたびに少しだけ胸が高鳴る。その度に俺はこの女に惚れているのだ、と思う。  いろんな男に百合の話をした。みんな、なんだそんな最低な女は、と言う。その度に笑えた。その女に惚れてるんすよ、俺。口にこそ出さなかったが、心の中でそう思った。  そういえば祥太どうしてるかな、とふと最中に思った。祥太には話してない。桂里奈の存在があったからだ。桂里奈はたまに一人でふらりと訪れることがあった。大抵牽制と侮蔑の言葉を投げ掛けて、帰っていく。ある日桂里奈は哀れんだ。俺が驚いた。俺を哀れむ女なんているのか。桂里奈は「可哀想にね。」と言って帰っていったのだった。百合のことは話してないのに、負け惜しみじゃない心の底からの哀れみを受けた。なにか神聖なものをみたような気持ちで秀明は桂里奈を見送ったのだ。  だから祥太には百合の存在は知らせなかった。きっと祥太は身を引くだろう。その先で待ってるのは、手ぐすねを別に引いてない、計画的犯行でもなんでもない、ただ本当に純粋に祥太を好きな桂里奈なのだ。こんな男のどこがいいのだろうか、と秀明は何度も祥太を抱いた。顔はいいかもしれない。声は結構イケボとやらかもしれない。でもどこにでもいる平凡な青年だ。そう思うと秀明の体はなぜか興奮して祥太を求めた。もう自分は狂っているのだ、と実感した。だからといってなにも感じない。結局は突然訪れた祥太に振られて桂里奈は万々歳だ。 「秀明ぃ。ちょおっと今月貸してくれない?」  終わってからおねだりする百合に秀明はたばこを吸いながら「いくら?」と聞いた。百合の口許がにんまりと笑む。
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