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スマホを持っているならラインで済ませればいいじゃないかって声も聞く。
けど、恋をする男女は自分の思いを文字に書いて伝えたいらしい。
階段を上っている時、学年が違う生徒とすれ違う。
動き回る谷川さん
目立ちたいだけでしょ
そんな声を聞くのも慣れたあたし。
階段の踊り場で、受け取ったばかりの塩飴を口の中に入れ、口の中で転がし、ばれない位置で舐めていく。
長く距離がある廊下は脚力を鍛えるのにちょうどいい。少し開けた窓ガラスに、全力疾走中のあたしがうつる。
ベリーショートヘアーの黒髪に、まっすぐな眉、三白眼の離れ目、丸みを帯びた顔と体型のあたし。
コンコン、コンコン・・・
「石井先輩いらっしゃいますか?」
陸上部の体力作りを兼ねた、ラブレター届け行動に、先生たちのキツイお言葉を受けたけれど、片想い人はあたしのような人を待っていたみたいで、7月中旬にもなると忙しさが増す。
はぁはぁ・・・
息を整えながら石井先輩を待っていると、砲丸投げの女子が来たぞとわざわざ説明してくれる先輩がいた。
「お届け物です。それでは・・・」
石井先輩に会釈し、今度は同じクラスの女子生徒の名前を呼ぶ。
「及川先輩はいらっしゃいますか?」
あたしとは真逆の美意識高い系な及川先輩が来て、あたしの全身を視線で見定めて。
ふん
と鼻息を鳴らす。
「わざわざどうも。谷川さん、痩せるために走ってるの~まぁ、頑張りなさい」
こんな嫌味を言われても気にしない。掠れた声で微笑む。
「及川先輩の恋が実りますように」
あたしがラブレターを届けに行ったからといって恋人になるかどうかは当人たち次第。
高飛車な及川先輩を好きになるって心の強い人か、美意識高い系か、その他か。
「あんたに言われたくないんだけどぉぉ」
廊下を小走りで走る背中に先輩の金切り声が響いた。
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