覚醒

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覚醒

 体が布団に倒れこむ。 「こーたん?!ほんとに大丈夫?!なんかプール始まってからずっとぼーっとしてたし赤い顔してたし、でも大丈夫って言うし」 「……ごめん、あんまり記憶…ない」 「ちょっと~?!」  倒れこんだ俺にかぶさるようにヒロミちゃんが四つ這いのまま移動してきた。  バレーボールで鍛えられた俺より大きな手が額に当てられる。少し冷たくて気持ちがいい。 「…熱中症だったんじゃないの?」 「熱中症…」  基本陰キャ、仕事も家で出来るから閉じこもりがち。  息子が小学生になって突然プールなんて陽キャイベントに参加とか俺にはハードルが超高だったから、とち狂ってあんな胸の谷間と口紅だけの女で変な妄想をしてしまったのだろう。  そもそも俺のスペックで今の家族って最高レベルに勝ち組なんだよ。  たしかに結婚は遅かったけど、俺の子二人も産んでくれて、しかも元気でかわいくて、両家どちらからも歓迎されてるし、仕事だって順調だ。  なんでこれを裏切るような妄想が出来たんだ俺。2ちゃんやまとめサイトで不倫ざまあなんて山ほど見て馬鹿にしてきただろうが!  ていうか、だから妄想しちゃったんじゃね?モテたことなんてないから間近でおっぱい見て勘違いしたとか?  おっぱいマウスパッドが恋しいのか俺は!子供出来て捨てたけど。  そういやヒロミちゃんは俺が自主的に捨てるまで何も言わなかったんだよな…。今でもオタ趣味に理解あるし。  そんな優しいヒロミちゃんと結婚できたの奇跡!俺の最高に幸せな結婚!!  そもそもこんなチビのおっさん、若い女が相手にするかよ!  ていうか絶対ヤバい女だよあいつ!  まとめサイトのテンプレプリンじゃねーか!  恐るべし。夏のプールと日差しの魔力。  俺、頭がおかしくなってたんだな…。 「う…ん、熱中症…だった…かも…。なんか、記憶がほとんどない…」 「ちょっとぉ!自覚ないのヤバイよ?!こーたんに何かあったらあたしらマジで詰むからね?!」  大きな体がかぶさってくる。ひさしぶりに彼女の体温を感じて冷えた体が少し熱くなる。  ヒロミちゃんは俺に数回すりすりしてからゴロンと自分の布団に戻った。  レスだからな。  でもお互いにガラじゃなくてそうなっただけ。ブサ自覚同士だし。友達夫婦で不満はない。 「無理させてごめんね。来年はちゃんと調整するから!」  本当に悪いと思ってるんだろうな、何度も何度も謝ってくれるから、俺が変な妄想しただけなのにすごく後ろめたい。 「いいよ、ヒロミちゃんの店が夏忙しいの知ってるし、仕事好きだろ?」 「…ありがと」 「来年は…俺ももっとうまくやるよ」  …って、なんか俺、言い方!  夏の太陽の下のイベントとかヤバイ。四十過ぎのチビのおっさんでも簡単に脳を焼かれる魔力がある。魔法使いだったから余計にだ。  来年は万全を期せねば。  焼かれ切る前に涼しくなってくれてよかった…。
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