パパ友

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パパ友

 強烈な日中の日差しがプールの水面を白く光らせる。見ていられない。  少し目を放しただけで息子の姿を簡単に見失ってしまった。  娘のつかまりバタ足をしていた小さな体が大きく揺れて、白い視界の中に影が入って来たのに気が付いた。 「たっくんパパ~!」  パーマのかかった濡れた茶髪をオールバックになでつけた背の高い男が水を搔きながら近づいてきた。  息子の友人レオ君のパパだ。 「毎日大変だよね~!なっちゃん泳げるようなった?」  娘は彼が怖いらしく、バタ足を止めることなく俺の後ろの方に移動して隠れた。 「…ごめん、人見知りが治らなくて…」 「...しょうがないね…女の子には好かれると思ってたんだけど」  あんたの子じゃ…と聞こえた気がした。視線が俺を見下している。  パパ友、いや、友達なのは息子達だけだ。この男はいけ好かない。正直娘になつかれたら困る。  おそらくはまだ三十歳前後、奥さんは妻の後輩でずいぶん年下の男と結婚したと聞いている。  背も高くイケメンの部類だろう。実際はわからないが性格も陽キャとかパリピとかそういう人種だ。  俺と同じように子供を連れて毎日プールに来ているのだから案外いい父親なんだろうが、晩婚の俺をバカにしている雰囲気が伝わってくる。 「ちょっと~パパ友会~?仲間に入れてよ~」  甘ったるい声で彼女が割り込んできた。  レオ君パパが息子を呼んで、彼女の子を一緒に遊ばせるように言う。お菓子で釣るとかそんな無理矢理一緒に遊ばせなくてもいいと思うのだが、一緒にいた俺の息子が張り切ってその子を遊びの輪の中に入れた。  息子は間違いなく妻似だと思う。  子供達が遠ざかると彼女はぐっと距離を近づけてきた。  腕に絡みつき、胸を押し付けて甘える。 「こちらどなた?」 「レオのパパで~す!ママはめずらしいね」 「そおなの?」 「共働きか、子供がいないうちに家事とか?うちは会社。役職持ちでさ」 「ワーママなのね。」 「いやー、ママかなあれ。子供の面倒全部オレ。在宅だからってさ、奥さん年上だから逆らえないんだよ。」 「在宅ってどこかに勤めてるの?」 「えっとね、ハナテクノ…て、アプリ作ってる会社でチーフやってる」 「すっごい!その若さで役職持ちなんだぁ。それで子供の面倒まで見てるの?役職持ちなら奥さんと給料変わらないんじゃない?」  え…、レオ君パパってうちの後輩だったのか。  チーフってどこのチームだ?  もっとも俺からこいつに話しかけたことなどないし、在宅の奴が多いから社員同士、特に下の社員は知らないのも多い。  一応彼の方は俺を会社の先輩と知っていたのか、やや頭を下げて片手を拝む形にした。  それにしても。  彼女はいつの間にかレオ君パパにしがみついている。  なんだこれ。  いつの間に?  え?  娘がせき込む声を聞いて我に返る。楽し気に話を続ける二人に構うことなく娘を抱き上げてプールサイドに向かった。  日陰にシートを敷いてそこに二人で腰を下ろす。  まぶしい、暑い。視界が白んで何も見えない。  息子の姿も、レオ君パパと彼女の姿も。  しかし息子は別の場所から現れた。 「パパ!」  俺のいる前でザブザブとわざと大きな水しぶきを上げる息子。隣にはレオ君がいる。二人でプールから這い出てきた。  今日はこのまま帰るか…。  彼女にはまた後で連絡してみよう。
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