そうだ、〇〇へ行こう

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平穏ということが、いかに大切なことなのかが分かる。佐藤雪乃はしみじみそう思いながら、安いアパートの一室へ吸い込まれていく。 サービス残業に数々のハラスメント、アラフォー女子の独り暮らしが周りにどう思われていようと、わたしはわたし。生きていくしかないのだから、仕方がない。 詰め込まれた折込チラシを引き抜き、玄関わきに放り投げると、その場で大の字になって天井を仰いだ。何もやる気がしない。むくんで脱ぎにくくなったパンプスも、少々横に大きくなったおかげでキツくなった制服も、ビール以外入っていない旧式の冷蔵庫が立てる独特のモーター音も、どうでもよかった。
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