プロローグ

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プロローグ

   いつもと変わらない朝だった。  まだ半分以上が微睡みに浸かった体を無理矢理に動かして何分も鳴り続けるアラームを止め、勝手に閉じようとする瞼を擦りながらのそのそとベッドから起き上がる。顔を洗って、天気予報を見ながら買ってあった菓子パンを食べ、歯を磨いて、服を着替えて、髪のセットをして、講義とバッグの中身を確認する。  大学進学と同時に学校近くのアパートで始めた一人暮らしの朝にも、いつの間にか慣れていた。  昨日とほとんど何も変わらない今日の始まり。たとえば天気だったり、たとえば気分だったり、細かく考えていけばもちろん毎日何かが変わっているのだろうけれど、それは全てが、「日常」という言葉の中へと吸い込まれていく。今日という日はそれと似たような昨日の続きで、むしろ、毎日同じことの繰り返しだ。  記憶の中に残る刺激的な日々とは正反対の、ある意味では退屈で、一方で平和的な安心感のある日々。大学に入学して二か月、すっかりそれが俺の日常になっていた。  しかしこの日、いつものように大学へ向かおうと玄関まで行った俺は、ドアの内側に取り付けられたポストのボックスを覗いて足を止めていた。  そこには、白い無地の封筒が一つ入っていた。  取り出して裏返してみても、真っ白な封筒には宛名も差出人も書かれていない。間違いかとも思ったけれど、中を見ないことには何もわからず、少し迷ってから封筒を開けて中身を取り出した。  その瞬間、誰に見られているわけでもないのに羞恥心が一気に込み上げ、俺は咄嗟にそれを封筒の中へと戻していた。  心臓が爆音で暴れ始めるのと同時に、頭の中が混乱と疑問で埋め尽くされていく。深呼吸をしてもなかなか落ち着かず、思考も全く動かないまま、手の中の封筒を見つめた。   中に入っていた、一枚の写真。 「……なん、で……これっ」  そこに写っていたのは、全裸でピースをする自分の姿だった。  
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