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第6話 一夜城の武闘会
ヴォルフラムとリーヌスがいなくなった。
おそらくリーヌスの《根なし草》でどこかに飛んだのだろう。侵入者の痕跡の全くない部屋を見て、テオはそう結論づけた。
「リーヌスの事ですから、何か考えてのことだと思いますが……」
「拐かされた、とは考えないのですね」
「親友ですので」
控えめに進言したカミラの言葉を、小さく首を振ることで否定する。テオにはリーヌスが自分を裏切ることなど、想像もできないことだった。たしかに彼女は金にがめついが、友情にはほどほどに厚い。ヴォルフラムのことも弟のように可愛がっている。彼女がヴォルフラムを連れ出したなら、それはきっと彼のためだ。
「今日はもう遅いわ。犯人を探すにせよ、ヴォルちゃんたちを探すにせよ、明日に備えて寝ましょう」
ぽん、と手を打ったメリエンヌの言葉に面々は頷いた。カミラは自分のギルドに帰って行ったが、ラウラ達やディーデリヒなどは、これから家に帰るのは面倒だと、ギルドに泊まることにしたようだ。もちろん、テオとエレノアもそうする。
皆でお泊まりなんて、きっとヴォルフラムやリーヌスなら喜んではしゃいだだろう。2人とも恥ずかしがり屋な所があるので表には出さないかもしれないけど。
空になった窓辺のベッドを見てから、テオはゆっくりと瞼を下ろした。
翌朝、ゴウンゴウンと地面が唸る音で目を覚ました。ぐらぐらと小刻みに揺れる地面に、地震かと姿勢を低くする。
「何なんだぞ?」
「外が騒がしいね」
早起きなロッタとディーデリヒが、怪訝そうな顔をして起きてくる。ペルレやシャッツは布団を被って眠たそうにしているし、エレノアはまだ夢の中にいるようだった。小さな揺れなど気にならないらしい。
「……あんな所に、塔なんてありましたか?」
窓の外を見ると、昨日まで青空が広がっていた場所に、巨大な塔があることに気がつく。一夜で建てるというのも不可思議な話だが、何よりそこに建物は建てられないはずなのだ。テオの見立てが正しければ、そこにあるのはダンジョンの中央に開いた大穴――奈落の筈だ。
「こんな事ってあります?」
テオたちはすぐに奈落の淵に駆けつけた。他のギルドの人間も、物音に気が付いて起きて来たのだろう。ちらほらと集まって来る野次馬の中には、見知った顔がいくつもあった。その誰もがぽかんと口を開けて見上げることしかできないでいる。
奈落の上に、城が浮いていた。
白銀の城塞に囲まれた、小さいながらに美しい城だ。屋根は海を思わせる青で、ステンドグラスの窓がこの城を特別なものに見せていた。一夜にして出現した豪奢な城は、土台ごと宙に浮いているのだった。
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