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「ねえ、本当に今日の送別会行くつもり? 大丈夫なの?」
「ずっと指導してきた後輩だし、欠席は失礼でしょ」
本音を言えば、行きたくない。
でもこれからも勤務し続けるなら体裁は取り繕わなければ。
ただでさえ、下世話な噂が広まっているのだから。
「あの性悪女、よくも私たちに声がかけられたわね。私は今夜接待があるから行けないけど、挨拶だけ済ませたらさっさと帰りなさいよ?」
「ありがとう、大丈夫。お祝いだけ伝えたらすぐに帰るわ」
辛辣な物言いをしつつも、心配してくれる凛の優しさが嬉しかった。
会社に到着し、自分たちの課に向かうため途中で別れた。
いつものように自席でパソコンを起動する。
合間に机周りを軽く掃除して、今日の仕事の段取りを考えていると、フロアの奥にある給湯室から、笠戸さんを含む女性たちの声が響いていた。
今夜の送別会を再び思い出し、胃がキリキリ痛む。
二年前、派遣社員として採用された笠戸さんは明るく、お洒落で可愛らしく、フロア内の男女から好かれていた。
『先輩、高野さんってどんな方ですか?』
最初に久喜について尋ねられたときに、彼氏だと言えなかった。
同期で友だちの延長線上から恋人になった久喜は、会社で交際宣言するのを嫌がっていたから。
『この間、会議の準備ミスを助けてくださって……お礼がしたいのですけど、どうしたらいいでしょう? 食事に誘っていいでしょうか?』
紅潮した頬で相談されて、どう答えるのが正解だったんだろう。
高野さんには社内に交際相手がいるらしいとしか口にできなかった。
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