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つらかった。
想いあっていると信じていたのは、私だけだったのかと胸が痛んだ。
同時に自分の至らなさを今さらながら考えていた。
口下手で相手への好意を言葉にせず、ふたりの時間を積極的につくっていなかったと反省し、もう一度交際を申し込もうと決めた矢先、笠戸さんとの交際宣言を耳にした。
『久喜さんと一年くらい前から毎日電話をするようになって、毎週末を一緒に過ごして……告白も彼からで』
同僚に嬉しそうに話す姿に、血の気が引いた。
凛は憤怒の形相で久喜を問い詰めたそうだが、私とは別れたのだから浮気ではないと言い切ったらしい。
なにも知らずに勘違いしていたのは私だけだった。
『社内で交際発表してなかったんだし、逢花は恥をかかないだろ。俺は悪くない』
渋る親友から無理やり聞き出した久喜の発言に愕然とした。
私が交際していた男性はこんな性格だっただろうかと混乱するほどに。
そして一カ月前、久喜と結婚が決まった笠戸さんの退職が発表された。
以来、笠戸さんはやたらと私に久喜の話をするようになった。
大方、私が彼の元恋人だと知ったのだろう。
見当違いの牽制だらけの毎日が今日で終わると思えば、送別会で祝福するくらい楽なものだ。
たとえ私がふたりを祝う気持ちにまったくなれなくても。
久喜と顔を合わせたくないが、社会人として、最低限の仕事上の付き合いをするしかない。
そう、思っていたのに。
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