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「あ、歩けます……!」
「抱えたほうが早い」
あっさり言い放ち、廊下を進んだ先にはドアがひとつだけあった。
彼はドアの前で私を降ろし、室内へと促す。
キスに夢中になるなんて……ううん、それよりもエレベーター内で口づけを交わすなんて……。
「カメラに逢花の顔は映っていないから安心しろ」
ドアが閉まると同時に、背後から私の心中を読んだかのような言葉が聞こえ、振り返ると再び抱きしめられた。
「見せるわけがない。逢花は俺だけのものだ」
まるで恋人のような独占欲の滲む言葉と色香のこもった眼差しに魅入られ、動けなくなる。
「俺の願いを聞いて。逢花の全部が欲しい」
毛先を骨ばった指が弄びながら、戯れにキスを落とす。
色気の漂う仕草に視線が奪われて、胸が苦しくなる。
もう、自分の感情がわからない。
――これが、世界に名をはせる大企業であり、葵財閥の御曹司、葵依玖との出会いで、私たちの名前のつかない関係の始まりだった。
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