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2. 最悪のブーケトス
「一路さん、おはようございます」
緩く巻いた髪をひとつに結わえた後輩、笠戸さんの挨拶に勤務先へと向かう足を止めた。
「……おはよう、早いわね」
「今夜の送別会、一路さんが来てくださるって久喜くんに伝えたら、凄く喜んでました」
フフッと声を漏らす姿は、文句なしに可愛らしい。
後輩が自然と口にした婚約者の名前に、心の底が鈍く軋む。
「できるだけ早く仕事を終わらせるわ」
「お忙しいでしょうから、無理をしないでくださいね」
お待ちしています、と会釈して先を歩く後姿を見送りながら、小さく息を吐いた。
「なに、あれ。私は元彼女にも寛大な対応ができるイイ女とでも思ってるわけ?」
すぐそばから聞こえた刺々しい声に、肩の力が抜ける。
「おはよう、凛」
「五月の爽やかな朝の始まりが台無しよ。おはよう、逢花」
「声が大きいわよ」
苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる、同期で親友の檜垣凛を窘める。
「嫌味な幸せオーラをまき散らしている女には聞こえないわ」
背中半分くらいの艶やかな薄茶色の髪をリボンバレッタで纏めながら、毒舌を吐く。
大きな二重の目と身長百五十九センチの私より五センチほど小柄な凛は、可愛らしい見た目に反して、自分の考えをいつもはっきり告げる。
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