2. 最悪のブーケトス

2/25

4163人が本棚に入れています
本棚に追加
/190ページ
「大体、先輩の恋人を堂々と横からかっさらう?」 「ほとんど自然消滅状態だったし、会社では交際を公表していなかったから」 「でも気づいている人はいたはずよ。高野(たかの)の女を見る目を疑うわ」 逢花を除いてね、と優しくフォローしてくれる親友と連れ立って歩き出す。 新宿駅前は今日も混雑している。 「いっそ例の詐欺女にでも騙されたらいいのよ」 苦々しい口調の親友に、小さく首を横に振る。 当社社員を名乗る女性が独身の男性社員に言葉巧みに近づき、誘惑して金品を貢がせたり、結婚を仄めかし、行方知らずになるという詐欺まがいの事件が近頃数件起こっていた。 被害者は全員、葵株式会社のいわゆるエリート社員で、真面目な気質の、恋愛に不慣れな男性だった。 会社側は、グループ全体の懸念事項として全社員に通達で注意喚起を行っている。 「あの子、どうやら前の勤務先でトラブっていたらしいわよ」 「前のって……加賀谷(かがや)商事? よく知ってるわね」 「勤めてる友人に聞いたのよ。仕事の評価は高かったけど、人間関係で揉めて転職したんですって。まあ、うちでも似たような状況よね」 そう言って、凛は渋面を浮かべた。
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4163人が本棚に入れています
本棚に追加