2. 最悪のブーケトス

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私たちは新宿駅から徒歩十分ほどの場所に本社を構える、株式会社(つつみ)インテリアに勤務している。 凛も私も同じ営業課所属だが、凛は商品デザイン担当で私は主に買い付けなどを含めた商品管理を担当している。 堤インテリアは世界中に五つ星高級ホテルを展開している大企業、葵株式会社の傘下のひとつで、元々はホテルで使用する家具や雑貨の製作会社だったと入社説明会で聞いた。 現在は、一般消費者向けの雑貨店も運営している。 ちなみにうち以外にも葵株式会社の傘下はレストランなどの飲食店を含め、多岐にわたる。 葵財閥と言われる葵家は歴史ある名家で、現社長とその息子は非常にやり手で業績は右肩上がりだ。 副社長の御曹司は三十歳の独身で、毎日山のような縁談が届いているらしい。 『身長百八十五センチの超イケメンだけど、ほとんど社交の場には顔を出さないらしいわ。ご令嬢たちが御曹司の取り合いで喧嘩するのに辟易しているせいですって』 噂好きで情報通でもある親友は以前、嬉々として教えてくれた。 『日本最難関の大学を首席で卒業したうえ、物腰も柔らかくて、紳士で誠実な人柄だそうよ。でもなぜか、プライベートは一切秘密なんだって』 有名人だから秘密なのでは、と当時の私が告げると、凛は楽しそうに口角を上げて言った。 『逢花のそういう、真面目で現実的な考えが好きよ』 半年ほど前の会話をふと思い出していると、凛に再び話しかけられた。
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