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第1話 地底都市アンティリア
『あなたを食べたくないよ、、、ヴィクトル、、、』
海のように碧い瞳からこぼれ落ちた涙が、僕の頬を濡らす。
泣かないでアリア、君は人魚だろ?
彼女の頬に手を添え、顔を引き寄せる。
月の光が照らす浜辺で、僕らは初めての口づけを交わした。
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『・・・このように、凶悪な『人魚』たちによる予期せぬ海洋からの攻撃は、我々人類に多大な物的および人的損失を与え、地上は彼らに奪われました。
しかし、反攻の時は近づいています。大地深くを掘り進めることにより得た、新たな、、、』
デジタルアーカイブは、いつか行われるという大反攻について繰り返していた。
『大反攻』
誰も信じていない、輝ける勝利の日。
そのような時が来ないことは、子どもでさえ知っている。
そして僕ら人類の未来がここと同じように閉ざされ、先などないということも。
映像が切り替わり、見たこともない地上の光景が映し出される。
我々の失われた大地、奪われた楽園。
どこまでも続く青い空、野山を照らす太陽の恵み、川のせせらぎ、そして陽の光を受けきらめく海。
海は何処までも深く、碧く、その波が生み出す音に僕、ヴィクトルは心を奪われていた。
・・・だが僕たちがそれを目にするはことはない。
ここは第9地底都市、アンティリア
人類に残された、最後の生存圏
そこに残された最後の生存者
閉ざされた大地の底で、人類はゆっくりと滅びを迎えようとしていた。
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最後の都市との交信が途絶えたのは16ヶ月前
いや、もとから交流などはなく、ただ薄く拾える電波から相手方がかろうじて生存していることを感じる状態だった。
交信が途絶えた後、しばらくは大人たちが騒がしくしていたが、14歳の僕には関係ない。
日々割り当てられる仕事をこなし、配給食を受け取る。
『地上は楽園で、人々は色とりどりの果実に囲まれ、本物の肉を好きなだけ食べることができていた』
と、デジタルアーカイブは繰り返す。
しかし本物の肉など、生まれてこの方食べてたことなどない。
トレイに乗る灰色の合成肉を見つめる。
僕にとっては三週間ぶりのごちそう。
本物の肉とはこれよりも美味しいのだろうか。
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深い眠りからぶった切るような衝撃。
眠りの中から無慈悲に引き戻され、僕は一瞬で現実へと戻った。部屋の中が上下左右に激しく揺れ、僕は床から浮き上がる。
ほどなく、扉の向こうから叫び声、助けを求める悲鳴が聞こえた。
『----りかえします。
緊急警報です。緊急事態が発生しました。
本日午前3時32分に発生した大規模な災害の影響により、第9地底都市アンティリアは破棄されます。
市民の方は、速やかに脱出ポッドに向かい、他都市への避難を開始してください。
繰り返します。----』
デジタルアーカイブと同じ無機質な声が、避難を促す。
しかしもう避難する先など残されていなかった。
廊下へ飛び出す。
曲った先で、黒い炎のようなものが揺らめいているのが見えた。
『大地深くを掘り進めることにより得た、新たな力、黒い炎は大地を清め邪悪な人魚たちを地上から一掃することでしょう。』
デジタルアーカイブが繰り返し述べていた一節がよみがえる。
そしてその力を安定させることが、まだできていないことも。
何も燃えるものがない廊下を這い、炎が足元に伸びる。
『その炎に飲まれたものは、肉体だけを失う。
また、灯りに照らされたものの臓腑は腐り落ち、息絶える』とも。
逃れようと、廊下脇の小さな扉に飛び込む。
ちょうど人一人座れるかというような狭い座面。僕が座ると、壁に埋め込まれた計器が光る。
『緊急事態の発生を確認。1名の搭乗を確認いたしました。射出を開始します。加速にご注意ください。』
声が聞こえたと思った次の瞬間、
加速が身体を座席に押し込み、そして僕は気を失った。
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