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第10話 シェルター
「確か、こういう市街地にはあるはずなんだけど、、、」
町中に建てられていた地図とにらめっこしながら、ヴィクトルが首をかしげる。
海の近くには破棄された市街地があり、廃墟が広がっていた。
風に揺れる残された看板や、かつて賑わっていたであろう商店の残骸。
いずれもが年月の重みを帯びて、寂しげに風に晒されている。
地図はすでに劣化し、一部の地名が読み取れなくなっていた。
「何を探しているの?」
と尋ねると
「避難シェルターを探しているんだ」
との答えが返ってきた。
なんでも人間が地上を手放すまで、人が住む場所には人魚の襲撃から避難するための場所があったらしい。
何年ももつように作られ、なんでも寝る場所があったり、お湯を沸かしたりもできるそうだ。
これは、絶対に見つけたい!
地図をじっくりと見つめ、自分であればどこに作るかを考える。
避難所であれば、多くの人々が安全に避難できるよう、交通の要所や主要な建物の近くに設けられていたはずだ。
「ヴィクトル、ここ見て。
この辺り、かつての駅か何かのように見えるでしょ?
駅と市役所の間にあるこのマーク、これが避難シェルターの可能性はないかな?」
地図上の不確かな形状を指し示すと、ヴィクトルは納得したように頷いた。
「なるほど、アリア。よし、確かめに行ってみよう。」
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さいきんみない、おおきなどうぶつ
さいごにたべたの、いつだった
たいようあるうち、うごかない
かしこいから、あわてない
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荒廃した建物群を通り抜け、風化した道路を追う。
時間はかかったけど、最終的には大きな堅牢そうな地下の入り口を発見することができた。
扉は重々しく、しかしそこには確かな期待感が詰まっていた。
「これがシェルターね。ドア、開くかな?」
「確か、共有のパスワードがあったはず。使えるかな、、試してみるね。」
彼が操作盤に数字を打ち込む。
すると、なんと入力することができた。
――― ガチャン
と音を立て、扉はゆっくりと開いた。
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ドアが開いた瞬間、私は驚きに目を丸くした。
避難シェルターの中は、まるで昨日まで誰かが使っていたかのようにきれいだった。
「わぁ…すごい。」
視線の先には大きなダブルベッドが鎮座してた。
布団に手を伸ばし、指先でその柔らかさを確かめる。
それは、旅をしてきた間に触れたものとは全く違った感触だった。
「これだけで、もう幸せかも。」
思わず転がり、心からの声が漏れる。
ベッドから室内を見渡すとキッチンスペースそして、そのすぐそばにはパントリーがあった。
跳ねるように起きあがりパントリーの扉を開けると、中には保存食がきちんと並べられ食べられるのを待っているようだった。
「これ、全部食べられるの...?」
目を輝かせてつぶやく。
背後でヴィクトルがクスリと笑う気配がした。
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保存食を温め、二人でまずは腹ごしらえ。
初めて食べる味付けのものもあり、今後の調理の勉強になる。
ヴィクトルも
「地下では合成食だけしかなかったのに、、、何故、、、」
と泣いていた。
またおいしいものを作ってあげようと心に誓う。
部屋には脱衣所とバスルームまでついていて、なんとバスタブまであり、シャワーの蛇口からは清潔な水まで流れ出てくる。しかもお湯まででるのだ。
部屋の奥には海岸へつづく避難経路もあり、万が一の時のことも考えられている。
「ここに住みたいーー!」
とは、心の底から染み出た本音。
二人の時間がいつまでも続けばと思う。
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久々の湯舟に浸かると旅の緊張がほぐれてゆく。
あの温泉以来かと思い返すと、恥ずかしさが蘇る。
今耳が赤いのは、湯舟の所為だけではないだろう。
――― 絶対見られたし、、、
ついに海まで来た。
これからヴィクトルはどうするのだろう。
戻って、一緒に暮らしてくれるかな?
まだ心の中の整理がつかず、彼に想いを伝えられていない。
伝えられずにここまで来てしまった。
――― 今夜は、これからのことについても話してみよう。
そう心に決めると、次にどう話を切り出せばよいか悩むこととなった。
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「一緒に寝る?」
自分で言って、赤くなる。
言ってから思い至ったのだけど、これではまるで私が誘っているかのようじゃないか。
「へ、変な意味じゃないわよ!旅で疲れているだろうし、こんなにふかふかで素敵ななお布団があるんだから、ここで寝なきゃだめよって言っているの!ベッドが一つしかないんだから仕方がないじゃないっ!!
それはまあ、手くらいつないであげてもいいけど。。。」
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結局、手をつないだ。
手をつないで寝た。
温かかった。
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