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第8話 湯煙
木々が密集した森を抜け、開放的な空間が広がった。
その風景はヴィクトルとアリアにとって、まるで異世界からの贈り物のようだった。
彼らを包む清新な空気が心地よく、アリアの顔には森を抜け出た安堵と目の前の景色への興奮が交差していた。
旅の途中、水浴びができていなかったアリアは、自分が臭くないか、ヴィクトルに臭いと思われないかと心配で、何度もこっそりと自分の衣服を嗅いでいた。
そんな中、白濁した川から湯気が立ち上る光景が目に飛び込んできたのだ。
「みて、川から湯気が上がってる!」
アリアの声が木々の間を駆け巡った。
その驚きに満ちた声に引き寄せられるように、ヴィクトルも目を川に向けた。
「本当だ、川の底から温泉が湧いているのかな?」
彼の声は、新たな発見に対する好奇心を隠さなかった。
瞳は川を見つめ、湯気を上げるその源を探った。
「へー、そんな場所があるんだ。ヴィクトルは物知りなのね。」
アリアはヴィクトルを見つめ、頷きながら微笑む。
その声に、ヴィクトルは頭を掻きながら笑った。
「映像で知っているだけで、見るのは初めてだよ。」
アリアの瞳は温泉に向けられ、その中に期待の光が灯った。
「でも温泉か、、、ということは、入ったりできるのかな?」
言葉の裏で、ずっと抱えていた心配から解放される可能性に心躍らせていた。
「ちょっとまってね。よいしょっと、、、うん、この温度なら入れそうだ。」
ヴィクトルはまず湯気を注意深く見つめ、それからゆっくりと腕を伸ばし、指先を湯に浸ける。
湯は彼の皮膚を優しく包み込み、温度は心地よい暖かさだった。
「やった!」
アリアの声は森を抜けた後の爽やかな空気に溶け込んでいった。
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久々に湯に浸かれる。
そう思うとほっとする。
さすがに三日も水浴びできないと、香ってくるものもあったのだ。
「絶対見ちゃだめだからね!」
とくぎを刺し、あっちを向いてもらって服を脱ぐ。
着替えの準備も抜かりない。
屋外で全裸になるのは少し恥ずかしいけど、温泉の魅力には敵わない。
足からそっと湯に浸す。
確かに良い湯加減。
そのままゆっくりと腰を下ろし、肩までつかる。
暖かさにほぐされる感覚に、ため息とともに自然と声が漏れた。
「ふぅー、生き返るぅー」
暖かい湯が肌を包み込む。心地よい温度に身体がゆっくりと緩んでいく。川から湧き出る湯が、ここ数日の旅の疲れを癒してくれる。
湯が白濁していて、胸元を覗き込んでも見えない。
これなら大丈夫だと、自分に言い聞かせる。
「ヴィクトル、少し離れてくれるなら、一緒に入っても大丈夫よ。」
言葉は震えていたが、自分の心は冷静だった。
少なくとも、そうであるように願っていた。
「本当に?それなら、ありがたくお湯をいただこうかな。」
内心、ドキドキと高鳴る鼓動が耳を突く。
なぜだろう、彼と一緒に湯に浸かるというのは、少し恥ずかしい。
胸がドキドキして、何とも言えない緊張感が身体全体を包む。
湯に沈みながら、彼の声の方向にふと視線を向ける。
心地よい温かさが全身に染み渡り、ずっと抱えていた心配から解放される感覚。
「この温泉、いいね。」
彼の言葉に、自分も思わず頷いた。
「うん、本当に。」
会話が弾み始める。
何気ない言葉の交換が、なぜか今は特別に感じる。
そんな中、足元に何か熱いものを感じた。
「あっつ!」
川底から湧いた熱い温泉に足を擦った。
痛みに反射的に体が立ち上がる。
はっとして見渡すと、ヴィクトルが驚いた顔で私を見ていた。
顔が火照るのを感じる。
彼に見られている。
そんな状況になるなんて想像もしていなかった。
言葉が出ない。ただ赤面してしまう。
「ご、ごめん、ヴィクトル。ちょっと熱くて驚いちゃったの。」
赤面しながら、急いで再び湯に沈む。
彼の赤面した顔が目に浮かび、心の中で何とも言えない感覚が渦巻く。
ほんの少しの距離で彼と共有するこの空間、それは新鮮で、同時にちょっとドキドキする。
「だ、大丈夫だよ、アリア。湯煙で何も見えていなかったから。」
声をかけてくれた彼に答えることもできず、しばらく口までお湯に沈みブクブクさせた。
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