(一)

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 彼女は不安そうな顔をめいっぱい作り、おっさんの顔に向けていた。  おっさんは仏のような優しい顔をして彼女を見ていた。 「わかりました。お話だけなら」  彼女はそう言うと、「支度してきますのでお待ち下さい」と奥に入っていった。  そうして一〇分ほどで支度を終えて出てきた。ここに来る前にはあまり着たことがない地味な(ださい)シャツに紺色のカーディガンとベージュのズボン姿になった彼女は、玄関ドアの向こうで待っていた刑事たちとともに、マンションの一階に駐めてある覆面パトカーに乗り込んだ。  俺は、彼女が家を出る時に彼女のハンドバッグに乱暴に押し込まれた。つまり、俺は彼女と一緒に泉水警察署へ行くことになった。 (続く)
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