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理代子と救急車
10月の町はすっかりハロウィン模様。黒と黄色、あるいは紫とオレンジで気取るスーパーや百均が目立っている。
紅葉も見頃だ。甘味はどこでも強豪揃い。ジョーカー第三部隊隊長、雨風塔吉郎はこの甘い香り達が小梅の救いになったら、と願っていた。
小梅が退院して一週間経った、17日火曜日、ジョーカー本部コンピュータールーム。塔吉郎達の見守る液晶の中、小梅は未明に内臓の危険を感じたようだ。理代子に黙って自力で救急車を呼んだ。
その後、小梅が腹痛の波によって自宅で転がり回ると、理代子は例によって駄々をこねながら小梅をゆする。
「駄目なのお? 駄目なのお?」
塔吉郎は救急車の中身をジョーカー隊員に入れ替え、自分も救急隊に扮して本田家に到着した。
夜空は快晴。理代子は激怒して、苦しむ小梅を救急隊の前で歩かせる。本田家の玄関外には街灯があり、救急隊から患者の様子が伺えた。
理代子は言った。
「この子、自分で歩けるんです」
「わかりました。では連れてゆきます」
塔吉郎の返事に、理代子は驚愕した。
「自分で歩けるって言ってるじゃないですか」
「救急車が必要かどうかは我々が判断します」
「帰ってください!」
「駄目です」
「なら私も乗ります。私は保護者です」
「どうぞ」
塔吉郎は大きな身体を縮め、理代子を車の中に迎えた。
「発車します」
別の隊員の声に、理代子が動揺して叫ぶ。
「駄目! おろして!!」
「どうしたんですか」
「救急車は必要ないって言ってるの」
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