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11話
私が家出をして(兄さん家にもいたが)実家に帰ってから、おおよそ3カ月が過ぎようとしていた。
妊娠5か月になっている。半月前に実家に戻ったところだが。
ソフィアは以前ほどではないがお腹に手を当てて撫でたり話しかけたりしている。まだ、赤ちゃんが出てくるまで4か月程はかかるのだ。たぶん、予定日は今年の7月上旬頃ー夏頃になるはず。そうルーブル先生も言っていた。
さて、両親は一番上の兄であるギルバートが戻ってくるまで1カ月はかかると言っていた。奥方やお子さん達も慌ただしくしている事だろう。そう思うと申し訳なくはあった。いつか、奥様ー義姉さんと兄さん、お子さん達には謝らないといけない。
「……奥様。その。お客様がいらしてます」
「お客様が?」
「はい。何でもギルバート様に会いに来られたとかで。けど生憎おられないのでお帰り願う事になったのですけど」
「……お帰り願う事になったのならそれでいいのではなくて?」
「それが。リゼッタ様がおられると聞かれて。挨拶をしたいとおっしゃっています。どうしましょうか?」
驚いた事に客人は私に会いたいらしい。サラサは困っているようで眉を下げて何とも言えない表情だ。
「……その。会いたいと言っているお客様は。どういう方なの?」
「リゼッタ様もご存知の方のようです。確か、イェーガー侯爵のご子息でライナス様とおっしゃいましたか」
「ライナス様ねえ。ギル兄さんのお友達ではあるけど。私は会った事がないわ」
ですよねとサラサも頷く。どうしたものかと私も思案する。そしたら、ドアがノックされた。返事をすると母が来ていた。
「……リゼッタ。入るわよ。いきなりで悪いわね。ライナス様はあなたに会いたいようなの。もし良ければ来てくれるかしら」
「え。いきなりそう言われても……」
「無理にとは言わないけど。ライナス様はあなたの噂をご存知のようよ。会ったとしても悪いようにはしないと思うけど」
私は仕方ないとため息をついた。
「わかった。お会いするわ」
私は同意してサロンに向かった。母とサラサも一緒に来たのだった。
「……ライナス様。娘を連れて来ました」
「……申し訳ない。ご息女がおられると聞いて挨拶はしておきたいと思いましたもので」
低いバリトンの声がサロンに響く。薄い茶色の髪と綺麗な翡翠色の瞳の爽やかな感じのとびっきりの美男がそこにいた。私はアルタイル氏や兄のイサギなど美男を見慣れてきたはずだが。そんな彼らにも勝る御仁だ。てまあ、観賞用にはいいかもな。と、どうでもいい事を考えていた。
「すみません。あなたがキエラ侯爵のご息女の……」
「……初めまして。リゼッタ・ウィルソンと申します」
まだ、完全に離縁はできていないのでアルタイル氏の姓を名乗る。すると男性は苦笑した。
「初めまして。俺はライナス・イェーガーと申します。イェーガー侯爵家の長男で。兄君のギルバート殿とは友人になります」
「……で。ライナス様。娘を連れて来てほしいとおっしゃっていましたけど。どうしてかお聞きしても?」
「あ。実はリゼッタ殿の噂を聞いて。ギルバートに頼んで会わせてもらおうと思ったんです。けど当の本人はいませんし。それで無理を承知でご両親にお願いしたんですが」
「あら。リゼッタが夫君と別れようとしているのがもう噂になっているのね。けどそれはこの子に会う理由としては弱いわねえ」
「それはそうでしょうね。俺はアルタイル様と会った事があります。奥方は家に置いて娼館に出入りして遊び回っていたと王都ではもっぱらの噂ですよ。俺もちょっとリゼッタ殿には同情していたんです。小さい頃に一緒に遊んだ事がありますし。久しぶりに会ってその。お慰めでもできればと思ったんです」
母も私も唖然とする。アルタイル氏の事を知っていたとは。でもこのライナス様。ちょっと裏があるような。普通、出戻りの女に会って慰めたいとか思うだろうか。どうもはっきりしないな。
「……何か下心でもおありですか。でしたらお帰りください」
気づけばはっきりそう言っていた。ライナス様は目を見開いてこちらを見つめていたのだった。
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