12話

1/1
前へ
/33ページ
次へ

12話

  私が言った後でライナス様は言い返す言葉が見つからなかったのか黙ってしまった。 両親がハラハラとしながら私とライナス様を見る。しばらくは沈黙の時間が続いた。お腹の子供に良くないから早く自室に戻りたい。そう思い始めた頃合にライナス様は口を開いた。 「……お帰りくださいですか。すみませんがそれはできない」 ぽつりと呟いた言葉に耳を疑う。今、この人何って言った? 「……できないって。どうしてかお聞きしても?」 「俺は真面目にリゼッタ殿にその。同情しているし夫君に腹が立っている。だから、夫君と別れる手助けをしたいと思っています。別れる事ができたら良い相手を見つける事も俺が世話をしたい。まあ、あくまでご両親のお手伝いの範疇でだが」 「はあ。それはご親切にどうも。でも私は今この通り懐妊しています。確実に別れるとしてもだいぶ待たなくてはなりません。ライナス様。それを考慮に入れた上であれば、有り難いのですけど」 はっきり言うとライナス様は私の目立ってきたお腹を思わずといった風に見た。そして謝ってくる。 「……申し訳ない。リゼッタ殿が懐妊中なのまでは知らなかった。ただ、アルタイル様のやり方にすごく腹が立っていたんです。それでいても立ってもいられなくてこちらに来たのですが」 「そうでしたか。けど何がライナス様をそこまで動かすのですか。私はあなたにとってただの友人の妹という立ち位置のはずですけど」 「俺は。昔婚約者がいて。その人は不意の病で亡くなりましてね。それ以来、独身でいたのですが。リゼッタ殿の事は以前から気になってはいたんですよ。ギルバートはあなたを心配していた。面倒見が良くて大らかで。優しい妹ーあなたが悪い男に引っ掛からないかと」 「はあ。婚約者の方を思わぬ形で亡くされていたんですね。お気の毒だとは思いますけど」 「ええ。あ。初対面の方に失礼しました。俺とした事が。リゼッタ殿。もし良い相手が見つからなかったら。その時は俺があなたを引き受けようかと思っています。考えておいてくださると嬉しいのですが」 唐突に言われて私は固まった。父は口を開けて驚き、母も大きく目を見開いている。 「……ライナス殿。いきなり何を言うんだ。リゼッタを引き受けるという事は要は結婚しても構わないと言っているようなものだぞ」 父が慌てて指摘すれば、ライナス様はしまったという表情になった。口元に手を当てて眉を寄せている。 「……そうよ。ライナス様。軽々しく言っていい事ではありませんよ」 「……すみません。俺は。リゼッタ殿があまりにも不憫で。俺だったらそんな目にはあわせないといつも思っていましたから」 ライナス様は頬を赤らめながら言った。はっきり言って男性がやると可愛げはない。 「ライナス様。あなたの真意はわかりました。私を気の毒に思って手助けをしようと考えてくださった事には感謝致します。けど今は再婚までは考える余裕はないんですよ。ですので待ってくださるとこちらとしても大いに助かります」 「え。では俺との結婚を考えてもらえるのですか?」 「……私ははっきりと結婚するとは言ってません。ただ、アルタイル様と正式に離縁が成立してから考えると言ったまでです」 きっぱり言うとライナス様はしょげ返った。尻尾と耳があったらしょぼんと垂れているだろう。 「……そうですか。そうですよね。急に言われても困りますよね」 なんと言うかちょっと面倒くさいと思ったのは何故だろう。でもライナス様はアルタイル様以上の美男だし性格もまあ真面目そうだ。独身というのも良い。 ちょっと気持ちが傾きかけたのは言うまでもなかった。だってこの先、子供二人も抱えて一人でやっていくのは正直言ってものすごく苦労するだろう事は明白なのだ。かなり不安感があったのは否定できない。こんな優良物件、そうは転がってないしな。打算する私だった……。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加