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13話
ライナス様はその後一旦帰って行った。
また来ますと言い置いてだが。私はもう来なくていいと思っていたが。一瞬でもライナス様を優良物件だと考えた自分をぶん殴りたい。男に散々嫌な思いをさせられたというのに。何で初対面の相手に気を許したのだろう。ぐるぐると不満やら何やらが渦巻く。仕方なく娘のソフィアの元に向かったのだった。
ソフィアの元に行くと既に起きていて乳母のイリスが絵本を読み聞かせていた。カーテンは開け放たれていて部屋の中は明るい。
「……あ。お母様。お客様のお相手は終わったの?」
ああ。やっぱりこの子が一番癒しになる。そう思いながらソフィアの側に行く。
「ええ。終わったわ。ソフィア、何を読んでいたの?」
「えっとね。「キツネとゆかいな仲間たち」っていう本よ。キツネがとても可愛いの」
「そう。「キツネとゆかいな仲間たち」は母様も読んだ事があるわ。最後はキツネも幸せになるのよね」
「うん。最後までイリスが読んでいたの。それによるとキツネは仲間たちと森で仲良く暮らしたってあったわ」
ふうんと相づちを打った。ソフィアはにこにこ笑いながら言う。
「お母様がこのキツネみたいに幸せになれたらいいのにって思うの。お母様。お父様の事はもう嫌いかな?」
「……ソフィア。あなたが大きくなったら本当のことを言うって約束したでしょう。それまでは待っていて」
「わかった。余計な事を言ってごめんなさい」
ソフィアはしょんぼりとして謝ってくる。私は黙って頭を撫でてやった。
乳母のイリスは心配そうにしている。ソフィアは泣きはしなかったが。悲しそうにしていた。
「お母様。お父様は帰って来ないのね。じゃあ、ソフィアはどうしたらいい?」
「ソフィア。母様が悪かったわ。ごめんね」
私はそう言ってソフィアの事を抱きしめた。ほっそりとした小さな体でこんな小さな子に我慢をさせていたのだと自分の不甲斐なさに呆れてしまう。
早めに再婚相手を見つけなければ。ソフィアは最初こそ戸惑うだろうが。この子に優しくしてくれる人であれば徐々になついてくれるだろう。そう思いつつもとりあえずは両親と相談だと決めたのだった。
「……リゼッタ。ちょっといいかしら」
親子二人して抱き合っていたらドアを開けて母がやってきた。ソフィアを離すと母は私に手招きをした。
「母さん。どうかしたの?」
「ええ。ちょっとね。二人で話したいことがあるの。わたしの部屋に来てほしいのよ」
「……わかった。ソフィア。ちょっと母様はお祖母様のお部屋に行くから。イリスと待っていてね」
「うん。わかった」
「じゃあ。行きましょうか?」
母は私を伴ってソフィア用の部屋を出た。向かうは母が使う南の棟にあるキエラ家本妻の居間だ。南の棟まで来ると母は私に小声で言った。
「リゼッタ。ライナス様はあなたとの結婚を本気で考えているみたいよ」
「母さん。私はまだ結婚をはっきりと承諾していないわ」
「……それでもよ。だから二人で話そうと思ってこちらにまで来たの」
母はふうと息をつくと自分で居間のドアを開けた。入るように促してくる。
「リゼッタ。お茶の用意はできないけど。代わりにジンジャーのお茶を淹れるわ」
「……ありがとう」
母はそう言うと先に部屋に入りお茶の用意を始めた。私も入ってドアを閉めた。しばらくは無言でいたが。ジンジャーのお茶の用意ができると私から切り出した。
「母さん。私ね。ソフィアやお腹の赤ちゃんの為にも再婚を早めにしようと思うの。そりゃ、お腹の赤ちゃんの父親が誰なのかはっきりしないと。再婚が難しいのはわかっている。それでもこれ以上、ソフィアに寂しい思いをさせたくないわ」
「……それはわかるわ。ソフィアはお父様がいない子とこのままだと世間から謗られてしまうし。だったら再婚を急ぐのも仕方ないわね」
二人していい案はないかと考え込んだ。その後、ライナス様と再び会った時にソフィアを同席させてみようと決めた。まず、ライナス様がソフィアと仲良くなれたら再婚相手として考えてみてもいいのではという結論になったからだ。
確かに私と仲良くしていても娘と気まずい感じになったら今後の為に良くない。とりあえずはソフィアの様子も見つつライナス様とお付き合いしてみようと私は決心したのだった。
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