14話

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14話

  翌日、ライナス様がお昼時にキエラ侯爵邸にまたやってきた。 今回はソフィアも一緒だ。会わせてみてどんな反応を見せるかわからない。 それでも今後の生活が掛かっている。ライナス様か他の男性が再婚相手になってくれたら女一人手で育てる苦労もしなくてすむ。まあ、ずるい考え方ではあるが。自分のためにも娘達(今後生まれる赤ちゃんも)のためにも必要ではあるし。 「……今日も来ましたよ。リゼッタ殿」 ライナス様は微笑を浮かべながら私に声をかけてきた。けど、なんと言うか目が笑っていない。どうしたのだろうか。 「ライナス様。どうかなさいましたか?」 「……あなたにはわかってしまったようですね。その。アルタイル様がやっとリゼッタ殿の居場所を突き止めたようですよ」 「え。それは本当ですか?」 「恐らくは。リゼッタ殿。実家にいたとしても狙われる可能性が高い。まだ会うのは二度目ですが。忠告はしておこうと思いましてね」 「……ありがとうございます」 小声で言われたのでソフィアには聞こえなかったようだ。ほっとその事に胸を撫で下ろした。けどアルタイル氏が本気で私を連れ戻そうとしている事に恐怖を感じる。そうしたらソフィアが心配そうにこちらを覗き込んできた。 「お母様。大丈夫?」 「大丈夫よ。ごめんね」 「……ソフィア殿。母君は大丈夫だよ。俺もこちらに来るから」 「……お兄さん。あの。ライナス様でしたっけ。お母様を守ってくれるんですか?」 「ああ。守るよ。何なら約束してもいい」 ライナス様が力強く頷いた。ソフィアはやっと安心したようではにかむような笑顔を浮かべた。 「そうなんだ。ライナス様、強そうだもの」 「ははっ。そう言ってもらえるとは光栄だ。実は騎士をやっていてね。剣には自信があるよ」 「すごい。ライナス様、騎士様だったんですね」 そうだよとライナス様は言う。子供の相手も苦にはならないようだ。 私はこれはいけるかもと思った。けどソフィアは目をキラキラさせている。ちょっと娘の食いつきように驚くのだった。 その後、ライナス様は帰って行った。私が妊娠中なので長い時間いるのは避けたらしい。ソフィアはちょっと不満そうだ。 「……ちぇっ。ライナス様ともっとお話したかったのに」 舌打ちまでしている。仕方なく私はソフィアの頭を撫でてやった。 「ソフィア。ライナス様は明日も来てくれるようよ。それを待っていればいいじゃない」 「それ本当?!」 「ええ。本当よ。また明日って言っていたわ」 「やった。明日も会えるのね!」 「……ソフィア。ライナス様の前では舌打ちしないでね」 私がぽつりと言うとソフィアは顔を赤くする。 「え。お母様。わたし、舌打ちしてた?」 「してたわよ」 頷くとソフィアは項垂れてしまった。自覚はなかったようだ。 「……ごめんなさい。ライナス様と会えないのは嫌だったの。だからつい……」 「まあ、ここには私とイリス、サラサしかいないから大丈夫よ。そんなに落ち込む事ないわ」 「……そうかな。お母様。怒ってない?」 「怒ってないわよ。ソフィア、ライナス様の事。好きになっちゃったの?」 「……どうだろう。よくわかんない。けど素敵なお兄さんだなとは思ったの」 私はソフィアが可愛くなってうりうりとまた頭を撫でた。 「あらあら。初恋が3歳だなんてね。やるじゃないの。ソフィア」 「……ええっ。お母様。その。初恋って」 「冗談よ。ソフィア。ライナス様は良い方だと私も思うの。もし、母様がライナス様と仲良くなっても怒らないでね」 私が言うとソフィアはこてんと首を傾げた。 「……お母様とライナス様が仲良くなるの?」 「母様はそのつもりよ。ソフィア。ライナス様の事は母様も良いなと思ったのよ。だからお付き合いしても怒らないでいてほしいの」 「うーんと。わかった。お母様がライナス様と仲良くなっても怒らない」 ソフィアはよくわからないながらも頷いてくれた。私は申し訳なくてソフィアをそっと抱きしめたのだった。
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