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15話
私はその後もライナス様と会い続けた。
娘のソフィアも一緒だ。ライナス様によくなつき、二人の関係は良好と言えた。私もちょっとずつ彼と距離を縮めている。今ではライナス様もリゼッタと呼び私も敬語なしで話すようになっていた。
家出から別居と言える状態に今はなっていた。妊娠も6カ月目でウィルソン公爵邸を出てから4カ月が経っている。お腹の赤ちゃんは医師によると双子らしかった。
性別は当然ながらわからないが。そんなこんなで穏やかに日々は過ぎていったーー。
そうして今日もライナス様と会い、ソフィアも一緒にサロンで話をしていた。
サラサが不意にやってくる。何事かと思い、ソファから立ち上がった。
「……あ。すみません。リゼッタ様。兄君のギルバート様からお手紙です」
「え。兄さんから手紙?!」
「はい。ライナス様にも読んでいただきたいと言伝を受けています」
サラサが頷いたので私は受け取り他のメイドが用意したペーパーナイフで手紙の封を切った。一通り読んでみる。
<リゼッタとライナスへ
二人とも元気にしているだろうか?俺は今王都にいる。
実は妻と娘たちも一緒だ。王都にいるリゼッタの旦那、アルタイル殿と話をつけるために行ったんだが。
奴と話し合ってはみたんだがメソメソと泣いてばかりで。早くリゼッタを返してくれと言っていてな。
同席していた俺の妻のジーナも怒っていたぞ。さすがに俺もアルタイル殿には呆れていて言葉もなかった。
結局話し合いは決裂状態で終わった。リゼッタにはすまないとしか言いようがない。何故かってアルタイル殿から離縁の一言を引き出せなかったからな。
とりあえず、リゼッタのお産が終わった頃を見計らってアルタイル殿をキエラ侯爵邸に連れて行くよ。ライナスを同席させた上で話し合うといい。
ライナスには一通りの事情は俺と父上から話してある。だからこいつに任せたらいいよ。
じゃあな。兄のギルバートより>
私は手紙を読んでライナス様をマジマジと見つめてしまう。一通りの事情は話してあるって。道理でライナス様が協力したいと言ってきたわけだ。脱力してソファに座り込んでしまう。
「……リゼッタ。大丈夫か?」
「大丈夫よ。ただ、驚いてしまって」
「手紙を見せてくれ。俺も内容が気になる」
私は言われた通りに手紙を彼に渡した。ライナス様はそれに目を通す。が、読むにつれて険しい表情になる。どうしたのだろう。
「アルタイル様を連れてくるか。本気で俺と対峙させたいらしいな」
「……アルタイル様がこちらに来るって。私、連れ戻されるわね」
「そういう風にはさせないよ。ていうか今更だろう。君とよりを戻すのは」
ライナス様は呆れたように言う。まあ、私もそれは思った。アルタイル氏もメソメソしてたって言うけど。嘘泣きとも言い切れない。
「リゼッタ。俺が同席するのは了承してくれるか?」
「……ええ。いいわ。私一人だけだとどうなるかわからないし」
「じゃあ、決まりだ。今は子供達の事が最優先だが。アルタイル様との事は今後も協力すると約束する」
私はありがとうと礼を言った。ライナス様は穏やかに笑いながらソフィアの頭を撫でた。穏やかな昼下がりに三人で語らうのだった。
翌日、ソフィアが昼寝をしたのでその間にライナス様と話し合う。
「まずはアルタイル様の事だけど。兄さん達に頼むしかないわね」
「それはそうだな。イサギ殿にも協力は頼んでおいたんだが」
「……ライナス様も手ぬかりがないわね」
歓心しながら言うとライナス様はそんな事はないよと笑う。
「俺よりもイサギ殿やギルバートの方が有能だよ。あの二人もリゼッタを放ったらかしにしていた事では怒っていたからね」
「はあ。昔からギル兄さんとイサギ兄さんはソリが合わなかったんだけど。妙な時に一致団結するから驚かされるわ」
「そうみたいだね。イサギ殿は俺に君を託すのもムカッ腹が立つと言っていたよ」
私は言葉が出ない。呆れたからと言える。こういうのを世間ではシスコンというのだろうか。私は何気に酷い事を考えながらライナス様を見た。
「……ライナス様」
「どうかしたか?」
「もし、アルタイル様と離縁ができたら。その時はソフィアのお父様になってもらえるかしら」
ストレートに告げた。するとライナス様はすうと顔を赤らめる。
「……な。それって。俺に対しての告白かな?」
「そうよ。ライナス様にはソフィアも懐いているし。私の旦那様になってもらうにはあなたが丁度いいと思ったのよ」
「そ、そうか。まあその。頑張るよ」
ライナス様はしまいには耳まで赤くなってしまった。照れているらしい。
「リゼッタ」
ライナス様はそう言うとソファから立ち上がる。私の前に跪(ひざまず)くと片手をそっと握ってきた。流れるような仕草で彼は私の手の甲に軽くキスをした。妙に照れたが。手を振り払う事はしなかったのだった。
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