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16話
私はライナス様が帰った後でソフィアの部屋に向かう。
既にソフィアは起きていて乳母のイリスが遊び相手をしていた。私が中に入ると嬉しそうに訊ねてくる。
「あ。母様。もうライナス様はお帰りになったの?」
「ええ。帰ったわよ。ソフィアを起こしたら悪いからってライナス様は言っていたけど」
「構わないのに。わたし、寝てたから仕方ないもの」
妙に大人びたことを言うなと私は驚く。でも後数ヶ月もすればこの子も姉になる。何と無くはわかるのだろうか。
「……ソフィア。もう夜だから。お腹は空いてるのかしら?」
「うん。空いてるよ」
「じゃあ、お食事にしましょう。イリス。サラサと一緒に私とソフィアの分の食事を持ってきて」
私が命じるとイリスは頷いて食事を取りに部屋を出た。二人きりになるとソフィアはとことこと私の方まで来る。
「……母様。ライナス様は元気にしてた?」
「してたわよ。ソフィアのお父様になってくれるかってきいたら。いいよって言ってくれたわ」
「え。それ、本当?!」
「うん。言ってたわよ。母様がお願いしたらちょっと照れてたけどね」
「え。母様。ライナス様が照れてたって。何かしたの?」
ソフィアがなかなか鋭い事を言ってきた。私は内心ヒヤリとした。
「……何もしてないわよ。ただ。おねだりしただけで」
「本当なの?」
「本当よ」
「……わかった。これくらいにしておく。母様。ライナス様が悪さしたら大きな声を出した方がいいかも」
「え。ソフィア。何言ってんの。ライナス様が悪さするわけないでしょ」
つい言うとソフィアはふうとため息をつく。
「母様。わたしね。母様が心配なの。だから無理しないで」
「あ。ありがとう」
お礼を言うとソフィアはとことこと近くまで来て私の着ていたワンピースの裾を掴んだ。爪先立ちしてそっとお腹に触る。
「……このお腹の中に赤ちゃんがいるのよってお祖母様が言ってたの。わたしも赤ちゃんを守るから」
「ソフィア……」
ソフィアはお腹から手を離した。私は感極まってこの子の頭を撫でてやる。
「……大丈夫。ソフィアは良いお姉ちゃんになるわ」
「ふふ。母様にお墨付きもらっちゃった。わたし、赤ちゃんが生まれたらうんと可愛いがる。でね。ライナス様とも仲良くする」
私はソフィアの頭をさらに撫でた。擽ったそうにクスクス笑う。
しばらくは二人でソファに座ってお腹の中の赤ちゃんに話しかけたりしたのだった。
イリスとサラサが夕食を持ってきた。私はゆっくりと食べながらソフィアに野菜も食べるように言う。
「……わかった。ニンジンも食べる」
「そうしてね。でないとお姉ちゃんとして示しがつかないものね」
「はい」
ソフィアはフォークでニンジンを刺すと口に運ぶ。ちょっと嫌そうだ。もごもごと食べる様子に私は苦笑する。昔はもっと嫌がっていたが。子供の成長は早いのだなとしみじみとなった。
「ソフィア。全部食べれたら後で絵本を一緒に読みましょう」
「……うん。だったら全部食べる!」
ソフィアの食べるスピードが速くなった。絵本の効果はなかなかだ。イリスとサラサは微笑ましいとばかりに笑う。
「リゼッタ様。絵本でしたらキエラ侯爵様が用意してくださっています。それを寝室に置いておきますね」
「……わかった。そうしてちょうだい」
「では。一旦失礼しますね」
サラサが一礼して寝室に行った。イリスがこちらにやってくる。
「もう、お食事は終わりになさいますか?」
「そうするわ。ソフィアもあらかた食べてしまったし。下げておいて」
イリスは頷くと私の分の食器やソフィアの食器を片付けていく。ワゴンに乗せて廊下に出て行った。そのまま、厨房に向かったようだ。入れ替わるようにサラサが戻ってくる。
「リゼッタ様。入浴をしましょう」
「……そうね。お湯を沸かしておいてくれるかしら」
サラサは頷くとお湯や他の準備で浴室に向かう。私はソフィアと二人で待ったのだった。
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