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3話
その日の昼間にかかりつけの医師のルーブル先生が診察のためにやってきた。
ルーブル先生は初老の男性で穏やかそうな好々爺という雰囲気の先生だ。私の部屋に入るとにこやかに笑いながら声をかけてきた。
「やあ。リゼッタ様。今日はどうされましたかな?」
「……こんにちは。ルーブル先生、ちょっとこちらに来てから体調が優れなくて。それでお呼びしたんです」
「ふむ。体調が。セアラ子爵家にいらしたのはいつですかな」
「10日前になります」
「なるほど。10日前ですか。わかりました。ちょっと触診と聴診器でも聞いてみましょう」
お願いしますと言って触診などを色々とやってもらう。瞼の下を引っ張ったり脈も測ったり。最後に聴診器で心臓や肺、お腹の消化器などの音を聞いてもらう。背中にも当てたりして聞いた後、一通りの事は終わった。
ルーブル先生は問診も行う。詳しい体調の変化を訊かれる。一つ一つ答えていく。
「……リゼッタ様。ではその。月のものはいつありましたか?」
「月のものですか。そういえば、2カ月前にあったような。その後はなかったですね」
「ふうむ。2カ月前か。確か胃のむかつきと吐き気。体のだるさ。後強い眠気ですな。体熱も測ってみましたが。ちょっと平熱より高かったですね。とすると」
「先生?」
「たぶん。妊娠しておられますな。胃のむかつきや吐き気は悪阻の症状に当てはまります。強い眠気と体のだるさも妊娠初期にはよく見られるものです」
先生の説明に唖然となる。まさか、アルタイル氏との子供だろうか?
顔から血の気が引くのがわかる。嘘でしょ。何であの変態おかま野郎の子供が今になってできるんだ。しかも出産まで離縁ができなくなるじゃないの。
ちくしょう、あの野郎。私は怒りが沸沸と込み上げてくる。やっぱりあの時ー家出をする前にもう一発殴っとくんだった。
「……リゼッタ様?」
「すみません。先生、たぶん父親は夫のアルタイル様です。でも彼には言っていませんので。知らないと思います」
「そうですか。では今後お一人で育てるつもりですかな?」
「ええ。そのつもりです」
「でしたら、兄君とリューネ様には言っておいた方がいいでしょう。お子様の事となるとリゼッタ様お一人だけの問題ではありませんから」
ルーブル先生は重々しくそう言った。私はそうですねと頷いたが。
先生としばらく話し合い、イサギ兄さんとリューネさん、両親にも手紙で知らせる事が決まったのだった。
その後、イサギ兄さんとリューネさんと話し合う。二人は再婚を勧めてきた。
子供の事を考えたら父親はいた方がいいが。アルタイル氏とはもう離縁するし。なのですぐにでなくていいから新しい父親になってくれそうな人を見つけたらいいのではと二人は言ってきた。確かにそれも一理あると思う。
が、相手が見つかるかが心配だ。仕方ないので家庭教師などの仕事を斡旋してもらって女一人手で育てる事も視野に入れた方が良さそうだった。
両親にも手紙で知らせた。そうしたら、安定期に入り次第、実家に戻るようにとあった。
私はその手もあるなと目からウロコが落ちるような思いがした。確かに妊娠しているとなったら兄さんの家にいるより実家の方が気を使わなくて良さそうだし。なので兄さんとリューネさんには後で安定期に入ってしばらくしたら実家に戻ると伝えた。
そうしたら、二人もそうしたらいいと言ってくれる。夜などに話し合ったらしく私は実家に戻る方がいいと判断してくれたようだ。そのおかげで私は後4、5ヶ月くらいは兄さん宅で暮らす事が決まった。
「……リューネさん。この間はありがとう」
「リゼッタさん。お礼はいいですよ。けど体調が心配です」
「今はいいの。でも迷惑をかけるわ」
気にしないでくださいとリューネさんは言う。今、私とリューネさんは子爵邸のサロンにて話をしていた。
今でもう家出をしてから半月が過ぎようとしている。妊娠がわかってから5日が経っていた。リューネさんは色々と気遣いをしてくれる。
その後、二人で愚痴を言い合ったりしたのだった。
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