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6話
家出をしてから早くも3週間が過ぎていた。
お腹はまだ目立たないが。悪阻は続いていた。今日も軽食を摂ったりあっさりとしたサラダなどですませている。イリスが代わりにソフィアの相手をしているから助かるが。リューネさんも様子を見に来てくれるので悪阻が治ってくれるといいのにと自分を恨めしく思う。
「奥様。大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。けどまだ胃の辺りがむかむかするわ」
「……そうですか。でしたらレモンの果実水をお持ちしますね」
そうしてと言うとサラサは急いでレモンの果実水を取りに行く。ソフィアはイリスと共にリューネさんの部屋にいる。私の体調を考えて預かってもらったのだ。イサギ兄さんも時折はあの子の様子を見に来てくれるらしいから助かる。
「レモンの果実水をお持ちしました。後プルーンのジュースもありますよ」
「……あ。そうなの。助かるわ」
私はコップに入ったレモンの果実水を受け取ると少しずつ飲んでみた。すっきりとした酸味と香りが鼻を抜ける。半分ほどまで飲むとサラサにもういいと渡した。プルーンのジュースも飲んで一息つく。
私はサラサにもう退がるように言う。人払いをすると部屋は一気に静かになる。
また、横になった。プルーンのジュースのおかげで貧血などにはならないですんでいた。イサギ兄さんの気遣いにはほとほと頭が下がる。というかソフィアを妊娠していた時、アルタイル氏はここまで気遣いをしてくれる事はなかった。公爵家の義父母は色々と滋養に効く食べ物や飲み物、暇つぶしになるような物、さらにはソフィア用の産着まで贈ってくださった。ご両親ができた方なのに息子である彼はリューネさんの事ばかりで妻である私は放ったらかしだった。
余計に腹が立つが。肝心のリューネさんはイサギ兄さん一筋だからそこがせめてもの救いだ。リューネさんはアルタイル氏を毛嫌いしていて私が家出をしてからはそれが顕著になった。イサギ兄さんも「よくもまあ、うちの妹を散々蔑ろにしてくれたもんだ。妻まで巻き込もうとしたんだから仕返しをしてやらないと」とか言っていた。
とりあえず、実家に帰る時は気をつけないと。そう思いながら眠りについた。
私は夕方に目を覚ました。ソフィアはどうしたのだろう。もう戻って来ているだろうか。そう思いながら重い頭を働かせる。ゆっくりと起き上がるとサラサを呼んだ。するとすぐにやってきた。
「奥様。もう起きたのですか?」
ドアを開けてサラサが寝室に入ってきた。すぐに応対できるようにドアの前で待機していたらしい。
「ええ。昼間に寝たから二時間くらいは経っているかしら」
「……もう三時間は経っています。ご気分はどうですか?」
「だいぶ良くなったわ。その。ソフィアはもう戻っているの?」
「はい。今は隣のお部屋でイリスさんと一緒に絵本を読んでおられます」
「そうなの。じゃあ、ちょっと食事をしたいから。準備をしてちょうだい」
わかりましたとサラサは頷いた。すぐに食事の用意をしに行く。
その後、簡単にパンとスープ、サラダ、小さめのオムレツを食べた。量も多すぎずで一通りは胃も受け付けたようだ。吐き気もないので安心した。
私はサラサに片付けを頼むと寝室に再び戻る。クローゼットに行き、大きな旅行かばんを出した。その中に持ってきた衣類や細々とした生活用品を詰めていく。用意してもらったマタニティードレスや踵の低い靴なども幾つか入れる。
後の荷物はサラサやイリスに手伝いを頼む事にした。いつでも実家に戻れるように準備はしておいた方がいいだろう。
そう考えたからだ。アルタイル氏がヤケを起こして連れ戻そうとしかねないし。兄さんの所にいる間は守ってもらえるが。実家に帰る時はそうもいかない。仕方ないので護衛を付けてもらうしかないか。
色々と考えて私は後2カ月したら実家に戻ろうと決めたのだった。
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