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7話
家出してから早くも一カ月半が経過した。
実家に戻ると決めてからは3週間が経っている。妊娠3カ月も過ぎようとしていたが。アルタイル氏の出した捜索隊は未だに私とソフィアを見つけられないでいた。そりゃそうだろう。セアラ子爵領は王都のウィルソン公爵邸から馬車で片道4日程は掛かる所にある。往復しても8日は掛かるのだ。
見つけるにしても子爵邸に私達がいる事を掴んではいるだろうが。領主であるイサギ兄さんがうまいことアルタイル氏には居所を見つからないようにしている。なしのつぶてもいいところだった。
そのおかげで私は後一カ月が経てば、実家に帰れるのだ。それまではこちらにいようと決めたのだった。
「……お母様。リューネさんからお薬をもらったよ」
おずおずと娘のソフィアが声をかけてくる。両手には紙包みがあった。
「何ていうお薬なの?」
「ジンジャーって言うんだって。薬草の一種だってリューネさんが言ってた」
「へえ。西隣の国ではよく見かけるお薬ね。お薬をもらえるなんて。良かったわね。ソフィア」
「うん」
「じゃあ、サラサに言って煎じてもらいましょう」
わかったと言ってソフィアは寝室を出て行く。サラサを呼びに行ったようだ。
私は寝転がると目を閉じた。もう、妊娠4カ月に入ろうとしている。お腹がちょっとだけだがふっくらとしてきていた。もうマタニティードレスを着ていないときつくなっている。
5か月目に入れば実家に帰るくらいなら何とかなるだろう。けど、お腹が大きくなっているから大丈夫だろうか。馬車の乗り降りが大変そうだし。
色々と考え出したらきりがない。そう思っていたらサラサとソフィアが寝室にやってきた。
「……お嬢様。お母様はお休み中かもしれませんから。ジンジャーのお薬を煎じてきますね」
「わかった。静かにした方がいいわね」
「そうしましょう」
サラサとソフィアの話す声が聞こえた。2人共気を使って寝室には来ない。
「お母様は近頃気分が悪そうだけど。ジンジャーは気持ちを落ち着かせてくれるから良いなと思ったの。だからもらって来たのに」
「……お嬢様。お薬にも好き嫌いがありますから。リゼッタ様がお好みになるかは聞いてみないとわかりませんよ」
「……そうよね。お母様が起きたら訊いてみるわ」
そうしてくださいとサラサは言う。そうして私はゆっくりと瞼を閉じた。
浅い眠りでうとうとし出すと2人の足音は遠のいた。目から何故か涙が出る。
瞼を開けて袖で拭ったが次から次へと溢れ出た。声を出さずに流れるに任せた。
1人でしばらく静かに泣いていたのだった。
1時間程してやっと涙は止まった。これはいわゆるマタニティーブルーというものだろうか。でなければ、普段だったら泣かないだろうし。
ふうと息をついてサイドテーブルに置いてあったハンカチを取って顔を拭いた。ベットから降りて仕方なく洗面所に向かう。蛇口をひねって顔を洗った。
タオルがあったのでそれで拭いたらだいぶすっきりした。そうしてベットに戻ったらドアがノックされる。
「リゼッタ様。もう、夕方が近いですから。起きてください」
「……ええ。わかった。今起きるわね」
「……では。失礼します」
サラサが寝室に入ってきた。手にはカップがある。どうしたのだろうと思っていたらこちらにやってきた。
「リゼッタ様。こちらはジンジャーを煎じた薬湯です。ソフィア様がリューネ様より頂いた物ですよ」
「……え。リューネさん、ソフィアにお薬を持たせてくれたの」
「はい。リゼッタ様の悪阻が思ったよりもひどいようだとお聞きになったようで。それでくださったとソフィア様がおっしゃっていました」
私はリューネさんにかなり心配をかけていたらしい。これは後日に直接お礼を言いに行った方がいいだろう。そう心中で決めてカップを受け取る。
「……ジンジャーもスパイシーな香りがするわね。飲んでみるわ」
一口飲んで苦味があまりないとわかると二口三口と含んでみた。飲むごとに吐き気が少しずつ落ち着くのがわかる。私はジンジャーのお薬湯を飲んでしまうとカップをサラサに渡した。少しして体が温まってきたので夕食も摂らずに眠ってしまったのだった。
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