82人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
1話
キエラ侯爵家には変わった息子がいる。
可愛いもの好きの兄、イサギだ。
私はすぐ下の妹でリゼッタと呼ばれている。兄は淡い金の髪に緑色の瞳の美形なのだが。困った事に可愛いものが大好きな変わった趣味を持っている。さて、私は既に結婚しており夫がいる。嫁いだ家はウィルソン公爵家でこの王国でも一、二を争う名門だ。子爵家に兄が婿入りしたのは父からの命令であった。父のタウロスは兄のイサギを昔から疎んじていた。
だからか、リューネさんと結婚して子爵家に婿養子になった事自体については喜んでいた。あいつには侯爵を継がせるつもりはないとのたまっていたほどだ。
何気にひどい事を言うので兄のイサギに同情してしまった。何より、リューネさんが気の毒だ。まあ、私の実家の事はここまでにしておいてだ。
現状の問題は我が夫のウィルソン公爵家の嫡男のアルタイル様の事についてで。アルタイル様は兄と違った意味での可愛いもの好きだった。
いわゆる幼女趣味ーロリコンの趣味を持っていた。そんな彼の好みど真ん中だったのが兄嫁で子爵夫人のリューネさんなのだが。
義姉でもある彼女に恋文を書いて毎日のように送っている。しまいには似合うだろうと宝飾品やドレスなどを贈るのだからさすがの私もキレた。
『いい加減にしてください、旦那様。リューネ様は義理の姉で兄の奥方です。身分だって違いすぎるんだから諦めたらどうなんですか!!』
私は夫のアルタイル様にそう怒鳴り散らした。そしたら、長身で均整の取れた逞しい体をくねらせながら彼は言い返した。
『いいじゃないのよ。あんたより可愛いらしくて性格の良いリューネちゃんに贈り物したって。本当にやんなっちゃうわ。何でリューネちゃん、あんな腹黒で大嘘つきと結婚したのかしら。あたしの方が良い相手なのにぃ!!』
私は頬をひくつかせながら夫の背中に蹴りを入れた。ガツッと鈍い音が鳴る。
いったあいと言う奴、夫に無言で殴りかかったのだった…。
私は大喧嘩をした後、実家の両親にこっそり手紙を送った。内容は「旦那にはほとほと困っている。なので娘を連れて実家に帰ってもいいか?」といったものだ。
両親は「我が家に帰ってきてもいいが。兄のギルバートが結婚したので同居でもいいんだったら……」という返事だった。私はしばらく考えてもう一度手紙で「わかった。じゃあ、イサギ兄さんの所に行く」と言ってみた。
両親はイサギ兄さんの所だったらかえっていいだろうと賛成してくれる。こうして私は旦那ことアルタイル氏にも内緒で娘を連れて家出をしたのだ。
アルタイル氏はイサギ兄さんに何度か手紙を出したようだが。全部、兄さんが握りつぶしたらしい。
リューネさんも私の話を聞いて大いに同情して何年でもいていいと言ってくれた。これには感謝しながら居候生活を始めたのだった。(ちなみに侍女のサラサや乳母であるイリスも一緒だ)
「……もう家出をなさって一週間が過ぎましたね」
そう声をかけてきたのは侍女のサラサだ。私もそうねと頷いた。側には娘のソフィアもいる。私は家出を本格的な別居に持っていき、離縁に漕ぎ着けたいのだ。ソフィアには悪いが。
サラサが紅茶とお菓子を用意した。ソフィアが甘いクッキーを食べながら乳母のイリスと話している。
「ねえ。お父様は元気かしら?」
「お元気でいらっしゃいますよ。今はお勉強の事も考えましょう、お嬢様」
「……はあい」
ソフィアは途端にしょんぼりとなる。この子には大変な思いをさせるなと罪悪感が湧く。それでもあのアルタイル氏とはもう夫婦をやっていられない。もし、奴と新しい子供を授かったとしても私一人ででも育ててみせる。
そう決意して私はソフィアに近づいた。頭を撫でてやったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!