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第一章
01 桜 I
「桜。
いいことを教えてあげるよ。
オレは君を、還さない」
シャルさんはそういいながら、形のいい唇をわたしのそれに押しあてた。
やっと、もとの世界に戻れるめどがたったのに。
傍若無人な宮廷医術師による、人生最大の危機的状況に、普通の女子大生だったあたしが、どうして陥ってしまったのか。
いまからそれを、語ろうと思う。
【 背中からキス 】
「おお、動いたぞ爺」
「さようでござりますなぁ」
男の人と、おじいさんの声がする。
目を開けると、石造りの天井が見えた。
見覚えが、まったくない。
「なんという可憐な娘だろう。
見ろ爺。平べったく痩せていて、閉じっぱなしの蕾のようだ」
褒めてんの、けなしてんの?
むっとして声のほうを見ると、金髪碧眼のイケメンがいた。
思わず2度見する。なに、このキラキラしたの。
白の上下を着こみ、真っ赤なマントを肩に取りつけている。
現実感を完全に無視したいでたちだが、絶妙にハマっている。
わたしは幼なじみの柊と遊園地に来ていたのだ。
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