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目が覚めると15時を回っていた。
体のあちこちが痛いけど、久しぶりによく眠れた雅美は少しスッキリした表情をしている。
結人の部屋は冷蔵庫とクローゼットがあるくらいでさっぱりとしている。
その中でひときわ目立った一角があった。
壁に大きく引き伸ばした雅美の着物姿の写真が貼られている。
「栗原。。いつ貼ったんだろ。」
随分前に1度だけ結人の部屋に入ったときはこんな写真なかったのに。
何だか少し恥ずかしい。
そして結人も1人の時自分をおもってくれていたのかなと思うと胸がキュンと熱くなった。
もう現場についたかな。
雅美はスマホを開くと動画が送られてきていた。
(おはよ雅美。京都めちゃくちゃ暑い。これから撮影入るとこ。浴衣姿の俺にキュンキュンしてね)
淡い水色の浴衣。セットアップした結人が写っていてめちゃくちゃ格好良くて雅美の口元がほころぶ。
「僕もちゃんとしないとですね。」
雅美は結人の部屋をあとにして自室に戻ると着物姿に着替えた。
本格的にメイクを終えると舞を舞う。
背筋。足先。首の傾げ方。
目線。細部に気を配る。
納得がいくまで何度も舞う。
細い音の捉え方は人一倍上手く、幼少期から師範代の祖母、喜代に期待されて厳しく指導され練習を積んできたこともあって全てが美しい。
6人兄妹の末っ子の雅美で両親は次男を後継者にしたがっていたが未だに祖母の喜代は雅美をと思っている程だ。
何度も同じ所を繰り返しどうにも納得がいかなくて幼なじみのアーちゃんこと島菖蒲に電話をかける。
菖蒲は日本舞踊はさほどではないが、琴と華道に関してはプロをも唸らせる程の腕前で時期華道の家元候補に上がっている人物。
もちろん同じ月華学園の出身者であり、雅美の両翼の右翼でもある。
「もしもし」
「まーちゃん珍しいね、まーちゃんからかけてくるの。どうしたの?栗原に虐められた?」
コール2回で菖蒲はでると少し楽しそうに告げる。
「そういうんじゃなくて。。あの。」
「もしかして上手く舞えないとかそういうの?」
感が鋭い菖蒲である。というのも生で演奏する相手は菖蒲だったりするので時期が近くて切羽詰まってるという推測に至ったわけだが。
「一緒に練習しようか?丁度いま須和も来てるんだ、それで僕も練習中だったんだよね」
須和とは菖蒲の恋人須和雪人であり雅美のもう一人の左翼である。
「でも、せっかくのデート中に。。」
「デートっていうよりスパルタで。。練習漬けだよ。キス1練習99の割合位で嫌になっちゃう。まーちゃんおいでよ。僕もまーちゃん目の前にしたほうが練習はかどるしね。」
「じゃあお邪魔します。」
「待ってるね。」
そう言うと通話がきれた。
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