結人と雅美くん

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雅美は鞄と小道具を持ってマンションを後にする。 そしてタクシーで菖蒲の家に向かう。 心配性の結人との約束事、女形の時は極力人目につかないように移動すること、というのをきちんと守っている。 本当は普段の行動にも気をつけてほしい結人だが、そこま縛り付けるのも厳しすぎかなと妥協してのそれである。 タクシーで30分ほどで菖蒲の家に着く。 豪華な日本庭園が都心にあるのだからもちろん菖蒲の家も裕福である。 チャイムを鳴らすとお手伝いさんにまずは繋がってそこから菖蒲へと変わる。 「マーちゃん今行くね」 広い庭園限界先で待っていると、程なくして菖蒲と雪人が現れる。 「いらっしゃいマーちゃん」 「久しぶりだな雅」 「2人ともお久しぶりです。」 「僕の部屋でお茶してから稽古しよう疲れちゃったんだよね。」 菖蒲はジロッと雪人を睨みつけて雅美の手を引く。 「お邪魔します」 「相変わらず綺麗だねー鈴音ちゃんって呼んだほうがいいかな?」 「アーちゃんの好きな方で。。」 「仲がよろしいことで結構だな。」 2人のやりとりを雪人は微笑ましく見ている。 こんな光景を結人が見たら嫉妬にくるいそうなものだが、雪人にとっては日常的に繰り広げられてきた延長線上なので全く気にならない。 「雅がくるんだったらなにか持って来ればよかったな」 雪人は2人の後を歩きながら告げる。 「松香堂のクッキーまだ残ってるよ、シュークリームは昨日食べちゃったけど」 要するに昨日からかその前からかお泊りだったということで、相変わらず何だかんだでラブラブなんだなと雅美は思う。 「気にしないで僕もたいしたもの持ってきてなくてごめんなさい。」 手土産はタクシーを停めて買った和菓子屋の水羊羹である。 「この紙袋は春風堂のお菓子だ。僕好きなんだよね。甘さ控えめで細工もきれいなんだよね。流石雅美目が高いんだから」 菖蒲は紙袋を受け取って嬉しそうだ。 「俺のも結構するんだぞ。」 雪人が文句の1つも唱える。 「シュークリーム1つ580円だもんねー高いよね。でも美味しかった。」 菖蒲はふふふと口元をほころばせている。 甘いものに目がない菖蒲は紙袋を大事そうに片手に持って早く早くと言わんばかりに雅美を部屋へといざなう。 3人は揃って部屋へと入った。 「マーちゃんの座布団今出すね。」 和室部屋の押入れから雅美用の座布団を出してきてくれる。 雅美には赤が似合うと菖蒲が昔に買った専用の座布団だ。 「どうぞ」 「ありがとうございます。」 正座の状態で座る雅美を見て相変わらず礼儀正しいななんて菖蒲は思う。 「今お茶いれるね。雪人はまだはいってる?」 「俺はまだある」 「じゃあマーちゃんのだけでいいね、あっ、麦茶でいい?抹茶たてたほうが良い?」 「あっ。麦茶で」 華道の家元の息子の菖蒲は茶道の腕も長けていて時折ご馳走してくれるが、どうやら今日はそういう気分では無さそうだなと察して雅美は言う。 「どうぞマーちゃん」 「ありがとう御座います」 両手で受け取ると雅美は1口口にする。 「あっ。クッキー食べる?残り物でごめんね。」 悪びれることなく菖蒲は皿を差し出す。それを1枚受け取るとニコっと雅美が微笑む。 「マーちゃんの笑顔ど迫力だわ。栗原が過保護になるわけだ。」 以前は可愛い雰囲気が強かったが、結人と付き合うようになって色家までもがましてきていた、それに加え女形の雅美の姿はどこか危うさを感じてしまう。高校生の頃とはまた違った魅力が加わって2人は顔を合わせる。 「帰りは家まで届けないとな」 雪人がつづける。 思うところは一緒のようだ。
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