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「すいません。急に私こういうものです。結人のサポートマネージャーをしています。五十嵐と申します。」
見せられたのは結人の所属する事務所の名刺だった。
「結人がいま大変な状態にありまして。」
その言葉に雅美の顔が青ざめる。
今さっき話したときは元気だったのに。
いったい結人に何が起きたというのか、考えるだけで恐ろしくなった。
「九条さん。九条さん」
一瞬眼の前が暗くなり倒れそうになる身体を五十嵐が支える。
「失礼しますね。」
抱きかかえられ、車内に運び込まれると、そのまま車は発進された。
意識を取り戻すと車内に結人のデビュー曲が流れていた。
「気が付きましたか?いきなりのご無礼申し訳ありません。」
「あの。。それで結人は」
声が震えているのが自分でも判る。
「手が付けられないんです。」
予想だにつかない返答が帰ってきて雅美の顔に?が浮かぶ。
「えっ?」
「相手役のモデルの子に怪我をさせてしまって。先に結人の機嫌を損ねるようなことをしたのは彼女の方ですが。」
「それで。その僕は何をしたら良いのでしょうか」
「結人を説得してほしいんです。このままだと撮影が進まず。」
結人は契約時に女性とのツーショット撮影やラブシーンを演じないことを条件にうたっている。
それを事務所側が破り今回強行突破をした挙げ句、そのモデルが結人にキスをしたことから結人が暴れ女性に怪我をさせたということだった。
女性側は謝罪を訴え結人は被害者は自分だと訴え、頑なに譲らないということだった。
「僕は。。結人は悪くないと思います。」
普段なら自己主張をしない雅美が言い放った。
「結人を説得すること、僕は出来ません。」
五十嵐は雅美を横目で見た。
彼が結人の選んだ相手。
「ラブシーンを演じないということは彼の芸能の幅を狭めることにもなるんだよ。社長は荒療治をしようとしたのです。」
「結人が決めたことです」
「君を思ってだ」
その言葉にチクリと胸が痛んだ。
それでも雅美は譲らなかった。
「結人のことです。僕が口を挟むことではありません。」
結人の選んだ相手。
か弱そうな見た目とは裏腹に心の通った少年。
「そうだね。君の言う通りだ。」
五十嵐は雅美を見て微笑んだ。
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