結人と雅美くん

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「雅美ごめん。俺雅美以外の人とキスした。」 雅美の顔が悲しそうに揺れる。 結人は雅美を抱きしめる。 その腕が震えていた。 「ごめん雅美。言い訳にしかならないけど許して欲しい。」 結人の声も震えていた。 「僕が。僕が消毒してあげる」 そう言うと雅美はチュっと結人の唇に触れるだけのキスをした。 結人はビックリして、嬉しくなって、泣きそうな顔になって雅美を見つめる。 「足りない雅美もう一度」 雅美は恥ずかしそうにもう一度チュっと口づける。 何度も結人にねだられて、雅美は幾度となく結人にくちづけた。 「おかえし。」 そう言って今度は結人から雅美に口づける。雅美の軽いキスとは違う激しいキス。 雅美の腰が砕けてしまいそうになり、結人はその身体をしっかり抱きしめた。 「雅美好きだよ」 「僕もです。」 「来てくれて有難う。でも撮影はしない。」 「僕じゃ結人の相手役になれないかな?」 雅美はポソっと呟くように告げた。 「えっ?雅美が俺の。」 雅美は頷いた。 結人は雅美を連れ現場に戻る。 「心配かけてすいません。俺の相手役、鈴音となら撮影続けさせていただきたいと思います。 そうでなければ今回この撮影は代役をお願いします。」 結人はそれだけ監督に伝えた。 監督は舐めるように雅美を上から下まで観察する。 雅美の瞳にいつものような怯えや劣等感みたいなものは微塵もなかった。 結人の隣にシャンと立っている。 「鈴音と申します。」 「鈴音さん。モデルの経験は?」 「ありません。ただ趣味で日本舞踊を嗜んでいます。その際に撮影されることはあります。」 監督はハッとする。 鈴音。日本舞踊。確か以前見た公演に鈴音という人物がいた。 誰もを魅了した。奇跡の舞台とうたわれたあの公演での主役の人物。 この人物こそまさにあの舞台で輝きを放っていた鈴音だ。 森村アコなんか比べ物にならないほどの儲けものだ。 しかし、これは結人の方が食われる可能性もあるな。 監督はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。そして雅美の手を取る。 「宜しく頼むよ鈴音さん。」 雅美は妖艶さを含んだ微笑みを浮かべた。
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